雨上がりの景色を夢見て
「…あー……」

私の言葉にそれだけ言って、沈黙する夏樹。きっと夏樹も気がついていたのだ。

だから、さっきお店で〝俺は仲は良いと、もともと思っている〟という、あくまでも夏樹だけが含まれる言い方をしたのだと思う。

「…俺たちが首突っ込んで良い事でもないだろ」

夏樹の言葉に、私も小さく返事をする。

分かってる。分かってるけれど…。

「…夏奈だから大丈夫だと思うけれど、距離感間違えるなよ」

そう言った夏樹は真剣な表情をしていた。

なんだ、夏樹、ちゃんと男じゃないの。無自覚なだけか…。

「うん、分かってる」

私はそう返事をして、運転を続けた。

ブッブッ

夏樹のスマホがメッセージの受信を知らせる。

「大和田さんから。『今年もいつもの日時によろしくお願いします』だって」

「もうそんな時期ね。大和田さん元気かな」

大和田さんは、私が病気で入院した時に担当してくれた看護師さん。2回目の入院の時も、私のことを覚えていてくれて、親身になってくれた。

「夏奈が元気になって9年か」

「うん。…有難いわ」

毎年定期検診を受けているけれど、不安がなくなったわけではない。けれど、毎日普通に生活できることに幸せを感じることができる。



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