パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
11.海を飛ぶペンギン
 翌日、貴堂が連れて行ってくれたのは、水族館だった。

「ここならみんな水槽に夢中で、他人のことなんか見ている人はいないからね。それに割と楽しい。来たことある?」
「多分、中学校以来だと思います」

今日も貴堂に助手席から抱き下ろされながら、そんな会話を交わす。

 貴堂は濃紺のコットンシャツとチノパンといういたってラフな格好だ。紬希はブルーのシャツワンピースを選んでいた。

 会った瞬間、今日はお互いにブルー系だね、と貴堂に微笑まれて言葉を失くしてしまった紬希だ。

 駐車場から水族館に向かうまでの道を貴堂は紬希の手を繋いでくれていた。指がきゅっと絡まるようなつなぎ方で、それにも紬希はとてもドキドキしてしまう。

 平日だったので人は少なかったものの、チケット売り場にはそこそこの人がいた。
 そんな中でも、貴堂のきりりとした雰囲気や顔立ち、紬希の儚げな雰囲気や綺麗な顔は正直とても目立つのだ。

 皆に見られて一瞬、紬希は怯んでしまった。
 けれど、貴堂が手をきゅっと握ってくれる。

「大丈夫。僕だけ見ていて? 水族館の中に入ったら何が見たいか考えておいて」
 そう言って貴堂は入り口に置いてあったパンフレットを紬希に手渡した。
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