パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
15.待機終了10分前に電話は鳴るものである
 紬希は雪真と、普段貴堂と使う駐車場に近い出入口で待ち合わせをした。
 目立たないように肩章などは外しているが、雪真は制服だった。

「紬希!」
「雪ちゃん? 何かあったの?」

「乗務のために先ほど出社したんだ。けど、今すべての飛行機の離着陸は制限されてる。紬希、エンジン火災だ」

 ひゅっと紬希は背中に氷を当てられたような気がした。

「それは……」
 わざわざ雪真が紬希を呼び出す理由なんて一つしかない。

「貴堂さんが操縦している機体だ」
 雪真のきっぱりした声。

 紬希は一瞬目の前が暗くなった気がした。
 いろんなことが紬希の頭の中を駆け回る。

 まだ、貴堂さんに大事なことを伝えてないとか、貴堂さんは絶対大丈夫とか、会えなくなったらどうしようとか、明るい笑顔とか、最後に別れたときの悲しそうな顔とか……だ。

 思わずふらりとした紬希は雪真が差し出してくれた手に掴まる。
「それって、すごく危ないの?」
< 179 / 272 >

この作品をシェア

pagetop