パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
16.『推し』ですっ!
「皆様、機長の貴堂です。当機は右エンジンに不具合が発生したため、羽丘国際空港に引き返します。現在飛行機は落ち着いている状態です。当機は燃料を消費し安全に着陸するため、しばらく上空を旋回します。左エンジンだけでも十分に、かつ、安全に着陸できます。引き続きシートベルトをお付けになって、お席でお待ちください。お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけいたします」

 英語で同じ内容を繰り返したあと、貴堂は機内アナウンスを切り替える。
「よし、替わろう。I have control」
「You have control」

 上空を旋回している間に降ろせる機体は全て降ろし、待機できる機体には待機してもらう。

 貴堂の機を降ろす滑走路は閉鎖になり、会社、消防とも連携していよいよ着陸、ということになった。

 管制から着陸許可が降り、着陸の準備に入る。
 右エンジンが故障した場合、左エンジンは右への片揺れを起こし、進路を右寄りに変えようとする。

 その可能性を見越して、ジェット機メーカーはラダー(方向陀)とエルロン(補助翼)に、必要に応じて片揺れを打ち消す制御をしているのだ。
 警告からも片揺れを制御するラダーやエルロンの不具合が起きていないことは確認できていた。
< 194 / 272 >

この作品をシェア

pagetop