パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
1.太陽と王子
貴堂(きどう)キャプテン、お疲れ様でした」
「お疲れ様!」
 貴堂誠一郎(きどうせいいちろう)は笑顔で、頭を下げてきたクルー達に挨拶をする。

 日本の空の玄関口、羽丘(はねおか)国際空港の数ある搭乗口の一つから、颯爽と歩いて出てきたのはジャパンスカイエアラインが誇る天才機長とも呼ばれている貴堂誠一郎だった。

 スッキリとした体躯と長身、真っ直ぐな瞳、どこか少年っぽさを残す笑顔と相反するきりりとした顔立ち。
 JSAの濃紺の制服がまた華やかさを引き立てている。

 30代前半の若さでありながら、すでにジャンボ機の機長としての資格を有しており、それが社内最速であったところが『天才』と呼ばれる所以(ゆえん)のひとつでもある。

 訓練中から、貴堂のその優秀さは教官から、上司から『あんな人材は見たことがない』と周りを唸らせていたらしい。

 頭脳明晰でいながら、判断力に間違いはなく、何より彼の操縦する機体に乗ったメンバーからは『天才っていうのは、その風を読む能力。空を味方につけているような人だ』という声が出るほどだ。

 それは正に天賦の才であるらしい。
 雨天の際の着陸は誰でもいやがるし、ある程度の揺れは想定される。

 場合によっては乱気流の中を飛ぶことになるのでなおさらなのだが、そんな時ですら『貴堂機長の着陸はエレガントだ。優雅なランディングだった』と常連客に言わしめたものである。
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