パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
20.風に抱かれて
 翌日、二人は潜水艦に乗ることになっていた。乗り場は車で30分ほど走ったホテルの近くだ。
「あら……ホテルの近くだったんですね……」
「うん。まあ……」

 エントランスも南国らしい雰囲気の大きな規模のホテルだ。
 けれど貴堂がこのホテルにしなかったのには理由があるのだ。

「貴堂さん!」
「あー、本当だ! 貴堂さんと彼女さんです!」

 エアラインの提携ホテル。自社の乗務員だけではなくて、他社の乗務員もステイする時の宿泊先なのである。
 きゃーっと制服の乗務員達が寄ってきたのだ。

 紬希は驚いてきょとんとしている。貴堂は紬希の手を指を絡めて握った。紬希は慌てて貴堂の顔を見る。
 けれど、貴堂は動揺することなくきゅうっと紬希の手を繋いで離さない。
 貴堂に声をかけてきた乗務員達には笑顔を向けていた。

「僕は休暇だからね」
「知ってますよー。超高級ヴィラにお泊りなんですよね?」
「島寄りなんでしょう? どうですか?」

「島寄り、というより島の中にある。なかなかいいよ。ね? 紬希?」
「はい。……あの、とても素敵です」
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