パイロットは仕立て屋を甘く溺愛する
5.お姫様を連れ出す王子様は?
「実際に触れて頂くと分かると思うんですけど、布によってツヤ感や厚み、動きが違います。一番取り扱いがしやすいのはこちらです。」
 そう言って紬希は巻いてある布を広げた。

「ブロードクロスといってシャツとしては、いちばんポピュラーな生地です。ツヤ、厚みともにここにある布地の中間くらいの感じになります」

「ふうん……」
 貴堂はさらりと手で触れ確認している。
 それを見ていたらなんだか紬希は緊張してきてしまった。
 白い布はシャツの中でも基本の生地であり、紬希の手元にある生地の中でも半分を白い布が占めている。

 今回はその中から貴堂のために選んで、5種類にまで種類を絞ったのだ。
 果たしてそれを貴堂が気に入るかは分からないし、お客様に目の前で生地を選んでもらうことは普段はしていないので、紬希はなおさら緊張が高まってしまう。

 どんな風に思っているのかは分からないけれど、貴堂は手触りや厚みを確認するように生地に触れていた。
 指先で何か分かることを感じ取ろうとしているかのようだ。

 その様子を見て紬希は次の布を広げた。
 同じ白の布でも風合が全然異なるものだ。

「こちらはコットンリネンです。麻混と呼ばれるもので風合いは麻の風合いを活かしていて、綿と混紡されているので、シワになりにくくて、麻だけの素材よりは縮みにくいです」
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