愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「あ……その……、苦しかったのです。あなたへの想いが……。あなたは、決して振り向いて下さらないのに、想いは強くなるばかりで……あなたが、いつか他の誰かのものになるのを見るくらいなら、いっそ共に死んで(いただ)きたいと……」

 震える声で言い(わけ)を口にする男を、シャーリィは冷たい目で見下ろした。
「……あなた達、私のことを愛しているのよね?なのに、私の気持ちは全く考えないというの?自分の想いばかりを私に押しつけて、ついには私の命まで奪おうと言うの?それが本当に愛だと言うの?私は認めないわ、そんな愛は」

 シャーリィの声は怒りを表してか、わずかに震えていた。
「こんなことをしなければ、もしかしたら、私があなた達のいずれかを好きになる可能性だって、あったかもしれないのに……残念ね。私はもう、決して、あなた達を好きになることはないわ」

 その言葉に、男達は死刑でも宣告されたかのように青ざめ、放心した。
 (さわ)ぎを聞きつけ集まってきた衛兵達に(なわ)(しば)り上げられても、呆然(ぼうぜん)としたまま身動きすらしない。

「姫様、お怪我(けが)はありませんか?」
 小刻(こきざ)みに肩を震わせ(うつむ)くシャーリィに、アーベントは気遣(きづか)わしげに問う。シャーリィは(かた)い声で答えた。

「大丈夫よ。見ていたでしょう?光の宝玉の魅力(ちから)で小鳥達を呼び寄せて、ローターハウゼン子爵を襲わせた所を」
「申し(わけ)ございません。姫様を危険な目に()わせてしまいました」
「あなたのせいじゃないわ。もう一人(かく)れているなんて、思わなかったもの」

 気丈(きじょう)な声で答えるものの、シャーリィの肩は震えたままだ。
 アーベントは、シャーリィの右手をそっと自分の手で包み、固く短剣を(にぎ)()めたままだった指を、ひとつひとつ丁寧(ていねい)に開かせていく。

「お(つか)れになったでしょう?少し静かな場所へ行って、休んだらいかがですか?」
 優しいその声に、シャーリィは泣きそうな顔で(うなず)いた。
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