夢見るだけじゃ終われない 〜恋と令嬢とカクテルと〜

「――これ、どうぞ」

 ニューヨーク行きの飛行機内。
 エコノミークラスの座席で窓から見える雲をぼんやりと眺めていると、不意に目の前に白いハンカチが差し出された。

 ――えっ?

 ハンカチを手にしているのは色素の薄い中性的な男性。たぶん私と同年代くらいだろうか。
 マネキンみたいに均整のとれた顔立ちと、肩までの長さのサラリとしたブラウンヘアー。

 最初に隣に座ってきたときにも思ったが、その(たたず)まいといい美貌といい、まるで絵本の中の王子様のよう。

 長い脚が窮屈そうで、エコノミークラスには不釣り合いに思えた。

「よければ使って。洗濯してるし(きたな)くないよ」

 ぼんやり見惚(みと)れていたら困ったように首を(かし)げられた。

 それでようやく、自分の頬を涙の(しずく)が伝っていることに気づく。

「あっ、ありがとうございます」

 彼の手からハンカチを受け取ると、私は慌てて目尻を(ぬぐ)う。

 ――うわっ、恥ずかしい! 泣いているところを見られるなんて。

 こんなところで泣くつもりなんて無かった。

 ただ飛行機の小窓から真っ青な空を眺めていたら、これから自分が生きる世界の狭さを思って感傷的になってしまったのだ。

 ――そう、これが私にとって最後の自由な時間……

 この一人旅から帰ったら、私はよく知りもしない相手と結婚させられるのだ。
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