『ちゃ、ちゃんと結婚も、できない……情けない、主人で、ごめんね……』


 あの夜から、お嬢の言葉が頭を離れない。


 本当になんなんだ、お嬢の周りにいる男どもは!
 あんなに美人で可愛くて小さくて健気なお嬢の何が不満だと言うんだ。
 ちょっと気が強いところも、チキチキ爪を立てて威嚇しているシマリスのようで最高に可愛いじゃないか。

 それなのに、お嬢に近寄る男ときたら、クズ&クズばかり!


 滅多に泣かないお嬢の涙に、俺の中の怒りは頂点まで振り切っていた。

 とりあえず、俺は侯爵夫妻と協力して、お嬢とヒトデナシーとの接触を断つ。

 奴はお嬢と会わせろとか、まだ夫婦だとか色々言っていたけど、慰謝料増額をつきつけたら急に静かになっていた。やはりクズだ。


 そして俺は決意した。

 そもそも、他の男にお嬢を任せようなどというのが甘い考えだったのだ。


 俺がお嬢を幸せにする!


 そう思った俺は、侯爵様と侯爵夫人に直談判した。

「お嬢様に求婚することをお許しください」
「チェレスティーロ」
「領地経営の勉強もしてきました。お嬢様の、侯爵家の役に立つことならなんでもします。お願いです、私にお嬢様の伴侶となるチャンスをください」

 頭を下げる俺に、侯爵夫妻は何も言わない。

 だめか、やっぱり使用人じゃだめなのか。
 侯爵家といったら、上級貴族だもんな。公爵、侯爵ときて上から2番目だ。国の顔だ。

 それでも、俺は……。

「チェレスティーロ」
「はい」
「それはつまり、キャロラインにはまだ求婚していないということだね?」
「もちろんです」
「あの子には事前に何か言ってあるのかな」
「いえ、何も」

 真っ直ぐに俺の目を見てくる侯爵夫妻に、俺は精一杯の誠実さをもって見返す。

「私達の目から見ても、キャリーは君に好意的だ。初心なあの子を丸め込んで、二人で直談判した方が効果的だったのではないかな」

 そのやり方は、考えなかった訳ではない。
 だけど……。

「お嬢様に負担がかかる方法を取りたくないのです」

 俺の言葉に、侯爵夫妻は静かに耳を傾けている。

「お嬢様は、こと婚約、結婚に関しては、いつだって周りに振り回され、苦悩してきました」
「そうだね」
「先にお嬢様に求婚して、それから侯爵様に報告したとして、当然ですが、結婚の許しを得られない可能性があります。そうやって、お嬢様に期待させた後に落胆させるようなことをしたくないのです。私は、これ以上お嬢様に結婚に関して苦悩してほしくない……」

 彼女が俺を選んでくれるなら、その後のことは全てトントン拍子に進むようにしておきたい。
 侯爵夫妻に反対されたとして、二人で立ち向かうといえば聞こえはいいかもしれないが、結局それは、結婚できるかどうか分からない状況にお嬢を落とし込んでしまうということだ。
 そして、情の深いお嬢のことだから、俺の求婚を受けた後にダメになってしまったら、相当なダメージを負うだろう。
 俺は、これ以上お嬢を傷つけたくないのだ。

「お嬢様を何より大切にすると誓います。お願いします」

 俺はもう一度頭を下げる。

 こんなことを言って、断られたらここでは働けなくなるかもしれない。
 そもそも、お嬢に求婚して振られたら、ここを出ていくしかなくなる。

 だけど、そんな覚悟はとうにできている。

 俺はお嬢を幸せにするために、勇気を出すと決めたのだから。