親にも妹にも婚約者にも夫にも恵まれなかった私ですが、公爵家令息に溺愛されて幸せになるようですよ?


 俺が頭を下げていると、肩にぽんと手を置かれた。

「チェレスティーロ」
「……はい」
「キャリーのことを大切にしてくれて、ありがとう」

 頭を上げると、侯爵夫妻は目に涙を浮かべながら微笑んでいる。

「先代執事のミッチェーロにも君にも、私達はいつも助けられてばかりだ」
「小さな頃からあなたはずっとキャリーの傍にいて、私達以上にキャリーを助けてくれていたわ。そして、何よりもキャリーのために、一度は身を引こうとしてくれた。そのあなたが、キャリーのためにここまで覚悟してくれたのだもの。私達に反対なんて、できると思う?」

 侯爵夫妻の言葉に、俺は胸が一杯になる。

「ほら、なんて情けない顔をしているんだ。これから、まずはキャリーに求婚しないといけないんだぞ。男としての一大イベントだ、気合いを入れなさい」
「はい」
「キャリーをよろしくね。あの子は気が強くて意地っ張りだから大変だと思うけど、可愛いところが沢山あるのよ。あなたの方が詳しいと思うけれど」
「……はい」

 感動で震えながら、俺は侯爵夫妻とともに、和気藹々と未来に向けての話をする。

 本当に、侯爵夫妻は人格者で、いい人達だ。
 この人達の下で働くことができて、目をかけてもらえて、俺は恵まれていると思う。

 そして何より、求婚のお許しは得たんだ。
 後は、お嬢に選んでもらうだけだ。


 そう思って、今日こそはお嬢に求婚しようと思っていたあくる日、俺は侯爵に用事があって部屋に向かう。


「……にはよく懐いているだろう?」
「……領地経営についてはあなたより詳しいかもしれないわ」
「……無理にとは言わないが、選択肢に入れても……」

 おっと、どうやら先客がいるようだ。

 声を聞く限り、お嬢が侯爵夫妻と話をしているんだな。

 仕方ない、侯爵への用事は後にして……。


「嫌です」


 お嬢の強い言葉に、俺はふと立ち止まる。


「嫌です、お祖父様」
「……嫌、なのか?」


 お嬢が侯爵様に向かってこんなに強い拒絶の言葉を口にするなんて珍しい。
 一体、何を嫌がって……。


「私、チェレスティーロとだけは絶対に結婚したくありません」


 こうして、俺はお嬢に、求婚するより前に振られてしまったのだ。


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