「キャロライン! キャロライン、いるか!?」
「まあ、ナルシスト殿下。急なお越し、痛み入ります」

 急にくるんじゃないわよ馬鹿野郎。
 暗にそう匂わせた発言をする私に構わず、急にギセイシャー侯爵家に現れたナルシスト王子殿下は叫び散らします。

「これはどういうことだ!?」
「と言いますと?」
「お前がやったんだろう!」

 バサッと投げ捨てられたのは、近隣5カ国の有名新聞社の新聞です。
 ですが、今日の一面の見出しは、どれも同じのようですわね。

『ナイトリー王国の第二王子の浮気発覚!』
『一夫一妻制のナイトリー王国の王族が浮気!?』
『神殿との亀裂は避けられない! ナイトリー王族の恥に密着!』

 見出しの横には、ナルシスト殿下とネタミーニャの熱い接吻の写真がこれでもかと大きく陣取っています。その写真の視覚的攻撃力の高さに、私は吐き気がしてきました。
 なんと、動画水晶用のQRコードが付いている新聞社までありますわ。やりますわね。

「こ、こ、こんなことをして、ただですむと……!」
「私ではありませんよ?」
「そんな訳あるか!!」
「よく見てください。この背景、侯爵家のものはありませんわよ。王宮や街角や公園ですわ。誰でも撮影できる場所のものばかりです」
「なっ、なっ、なっ……」
「斜め上からのこの角度、監視カメラの映像が多いようですわね」

 私の指摘に、ナルシスト殿下は真っ赤な顔をしながら固まっている。
 流石の私も、足がつくような真似はしないですわよ。

「それにしても、殿下はこのような破廉恥な真似を、街角や公園でもなさっていたのですね」
「……!」
「神殿はなんとおっしゃるかしら。そういえば、一般貴族から王族に対して婚約破棄するなんて、数百年ぶりのイベントですわね!」
「……キャ、キャリー、すまなかった。許してくれ……」
「え、嫌ですわよ」
「は?」

 私の拒絶に、ナルシスト殿下が心の底からびっくりしたという顔をしてこちらを見ています。

「王族の私が謝罪したのに?」
「許したらあなたと結婚しないといけないじゃないですか。いやですわよ、こんな盛った獣みたいな脳みそ空っぽ男。ばっちぃ」

 思わず本音をポロりんさせましたが、殿下はぽかんとしています。
 どうやら、私の言葉が聞き慣れない内容だったらしく、脳に染み込むのに時間がかかったようです。
 しばらく時間が経った後、再起動した殿下はようやく、顔を真っ赤にして怒り出しました。

「王族に対してなんという態度だ! 不敬罪で投獄してやる!」
「不敬罪だなんて恐怖政治向けの罪状、今時この近隣諸国には存在しませんわよ。12歳の私でも知っていることを知らないだなんて、本当に今までお勉強してこなかったのですね」
「投獄してやる!」
「そういう脅しは脅迫罪に当たります」
「お前のさっきの暴言はどうなんだ!」
「私が公然と殿下に暴言を吐いたなら侮辱罪ですわね。ですがここは侯爵家の一室、部屋の中には私と殿下、そしてうちの使用人しかいません。『公然と』という要件を満たしませんわ」
「口が減らない!」
「殿下の口が減りすぎです。本当に、きちんとお勉強した方がいいですわ……」

 呆れた私の様子に、とうとうナルシスト殿下は目を血走らせて襲いかかってきました。
 私の首に手をかけたところで、バチっと音がしたかと思うと、殿下はその場に崩れ落ちます。
 崩れ落ちた殿下の背後にいるのは、もちろんチェレスティーロです。
 
「雷魔法の魔道具です」
「よくやったわ、チルチル。守ってくれてありがとう」
「お嬢様のお役に立つことができて光栄です」

 チルチルにお礼を言うと、私はそっと壁際の棚にある写真立てに手を伸ばします。

 写真立てに入っているのは、お母様と赤ん坊の私が二人で写った写真です。
 あの残念親父は愛人のところに行っていて捕まらなかったから、仕方なく二人で撮影したものらしいですわ。残念親父、マジ畜生。

 そして、私が用があるのはその写真ではありません。
 その後ろに隠していた映像記録装置です。

 映像記録装置の録画を止めた後、私はチルチルとお祖父様達が来てから総入れ替えした使用人達に、にっこりと微笑みます。

「さぁて、これどうしようかしら。胸が躍るわね?」

 私の笑顔に、チルチルを始めとした使用人達はいい笑顔で頷いてくれました。