イーチェンが訪れる時刻が近づいた。シーハンは宦官の長である太藍にルゥルゥがいなくなったことを伝えるが、リーファがいるため捜索隊を出すのは簡単ではなかった。こうなると、イーチェンの指示が頼りだった。

「兎貴人様、ベールをかぶってください。陛下からの要望で、常に兎貴人様はお被りになっておりました」
「あら、そんなものを被ったら私の顔が見えないじゃないの」
「……」

 シーハンはベールをリーファの横に置くと、部屋の隅にそっと避けた。リーファは後宮でのしきたりなどを無視して、高座に座っている。イーチェンが訪問する時は、兎貴人といえど獣人王たるイーチェンの下座に降りて頭を垂れる必要がある。

 それさえもできないリーファに、シーハンはため息をついた。ここで血が流れなければいいのだが、と思う他ない。血が流れれば、ルゥルゥは悲しむであろう。そのことの方が気がかりであった。

「陛下がおつきになりました」

 宦官が声をかけると、扉の向こうにイーチェンが立っていた。部屋の中に入り姿を見た途端、顔をしかめて兎貴人の衣装を着るリーファを睨みつけた。

「そなたは何者だ? 兎貴人はどこにいる」
「陛下、私が本物の兎貴人です。出来損ないの妹が代わりをつとめておりましたが、本来は私が後宮に上がるように言われておりました。どうぞ、よしなに」
「もう一度言うぞ、女。兎貴人はどこにいる」