獣人王は濡れ羽色をした長い髪の上に黒兜をかぶり、切れ長の怜悧な目を真っすぐ前に向けていた。すっと通った鼻筋にきりっと引き締まった唇。問答無用で敵をなぎ倒した王は、獣人の中でも頂点に立つ狼、それも黒狼の獣人だ。

「すっげぇ強そうな顔をしているな」
「だって将軍って、一人で千人の敵を倒したって噂でしょ」
「あぁ、でも冷酷で血も涙もないって話だよな」
「わぁ、怖い」

 人々が噂している中を、ゆっくりと通り過ぎていく軍隊を見ていると、獣人王がふっと顔の向きを変えた。ルゥルゥは何気なく見ていると、ほんの一瞬、王の黒い双眸と目が合った。

――ドクンッ――

 心臓が跳ねる。体中の血が、まるで沸騰したように流れはじめる。ドクドクと早打ちする鼓動を抑えるように、胸に手を当てた。

「うっ、どうしよう。なんか、私、おかしい……」

 長櫃から降りると、吐き気に似た気分の悪さを感じてその場にしゃがみ込んでしまう。だけど、このままここにいても仕方がない。唾をぐっと飲み込んだルゥルゥは立ち上がると、人込みから抜け出そうと歩き始めた。

少し離れると、胸の動悸も次第に収まってくる。歩きながらルゥルゥはさっきみた王の怜悧な瞳を思い出した。

 ほんの、一瞬だった。黒光りする双眸が、ルゥルゥの紫水晶のような紫の眼を捕らえた。

 ドクンっ、と胸が高鳴る。獣人王を思い出すと、おかしくなる。