その日の夕刻に、シーハンが慌てた様子でルゥルゥのいる部屋にやってきた。

「シーハン、どうしたの? そんなに慌てて」
「兎貴人様、急いでお支度ください。陛下からのお呼びがありました」
「え、なんですって?」

 シーハンは額にうっすらと汗を滲ませていた。急に、獣人王から兎貴人を寝所に侍らすようにと伝達が来たと言う。追い出されるのかと思えば、寝所に呼ばれる。なぜ、このようなことになったのかと聞くと、どうやらムーチェンが動いたようだ。

「兎貴人様のお父上が、陛下に『甘茶を用意した』と伝えたとのことです。それは、要するに陛下と甘い夜を過ごしたい、という意味になります。それに陛下が答えられた、ということです。……陛下のお子を望む声は、強くなっていますので、それに配慮されたのかもしれませんね」
「そうなの、でも……、もう顔を見せるなって、言われたのよ?」
「はい、ですからベールをしたまま来るように、とのことでした」
「まぁ、ベールを」

 ルゥルゥはことばを失った。確かに、兎貴人の顔を直視されれば、女官のルゥルゥと同じ顔だとわかってしまう。ルゥルゥは女官として生きることが出来るようになった時、兎貴人としては瑠璃宮を出て行くことにしようと思っていた。