千里の反応は狙い通りだった。

当日なって結婚相手は兄ではなく俺だと告げられ、考える時間を与えられず、冷静に判断できない状況で迫られれば、あれ以外の返事はできないだろう。

どうしても断られるわけにはいかなかったから、少し強引な手法を取った。

両親たちや兄はさすがに事前に話しておくべきだと俺に忠告していたが、頑なに聞き入れなかった。

ゆえに、『相馬総合病院は、隆成に継がせる。千里ちゃんには、隆成と結婚してほしい』――そう父に言われたときの千里の絶望した顔に心を痛める権利は俺にはない。

それにしても初っ端から、『着物すごく似合っていてかわいいね』という兄の言葉に喜ぶ千里にむっとして、とっさにあくびをした振りをしてしまうとは。

『昔の俺はガキだった』などと口にしたが、ちっとも成長していない。

兄弟仲はいいほうだが、千里に関してはどうしても兄に嫉妬してしまう。

一方通行の片想い歴が長すぎるからだろう。

しかも兄は、千里に好かれていることに気づいていない。彼女の心は俺だけが知っている。