総長様は可愛い姫を死ぬほど甘く溺愛したい。


あの日の記憶のことは何にも覚えていなくて、でも心にぽっかりと穴が空いているような空虚な気持ちだけは今も残り続けていた。


***


「桜十葉ー、入るわよー」


人の承諾も聞かずにスタスタと私の部屋の中に入ってきたお母さん。私はそんなお母さんを無視して、ベッドの枕に顔を埋める。


「桜十葉、大丈夫?昨日からずっと元気がないじゃない。急に帰ってきたかと思えば……」


裕翔くんと離れて、今日で二日目。

裕翔くんがいなかったこの二日間は本当に何もかもがつまらなくて、今日だって夕方になるまで宿題にも手を付けられないくらいだった。

何だか裕翔くんの事が恋しくて、直ぐに会いたくなってしまうのは私の悪いところだ。


「なーに、裕翔くんと喧嘩でもしちゃった?」

「ううん、……」


お母さんが優しく私の話を聞いてくれようとしている。

そんなお母さんに、じわりと涙が滲んで、弱りかけていた心が夕陽の鮮烈だけれども、とても温かな光に照らされているような感覚になった。

私が裕翔くんには考える時間が必要だと直感的に思って、離れただけ。それだけなのに、何だか昨日から不安で不安で仕方ないのは何故だろう。

お母さんなら、裕翔くんのこと、何か知っているのかな。


「お母さん、……裕翔くんってさ。一体何者なんだろう?」

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