涙をぼろぼろと零しながら、痛い、痛いと、私は泣き喚いた。死んでしまった父と母を呼びながら。
 だが、私を慰めてくれる両親の姿は、もうそこにはない。
 1人、喚き続ける私。
 無慈悲にも、2度目の兄の拳が叩き付けられた。
 今度は痛みと衝撃で、泣くことすらできなくなった私は、床に転がった。
 必死に顔を起こすと、寄ってきた兄に胸ぐらを掴まれた。
 兄は恐ろしい顔で私をにらみつけると、静かに言った。

「黙れ」

 涙は止まらなかったが、恐怖で声は止まった。
 私が黙ると、兄は掴んでいた手を放し、再び横になった。
 その日の夜、私は部屋の隅で、嗚咽が漏れぬよう、声を殺して泣き続けた。



 翌朝、兄は早くに出かけていった。
 その時私は、このまま捨てられてしまうのだろうかと思った。
 しかし、意外にも兄はすぐに戻ってきた。
 昨夜のことに、謝るでも、怒るでもなく、いつものように無言でパンの袋を投げつけると、部屋の反対側で横になった。
 投げ突けられた袋を受け取り、しばし呆然としていた私だったが、もはや空腹が限界に達していたため、後は何も考えられずに必死にパンを貪り、そして眠った。
 これが悪夢のような日々の始まりだと、私は想像もしなかった。
 昨夜の出来事は、何かの夢だったのだろうと、鈍った思考で、呑気に考えていた。
 この日を境に、兄は何かと私に暴力を振るうようになっていった。
 そして私には、兄が何を考えているのか、わからなくなっていった。
 私を殺すでも放り出すでもなく食料を用意し、でも気に入らないことがあれば、たびたび殴りつけた。
 酷い時には、髪を掴んで引き摺られたり、腹を蹴られたりもした。
 泣き喚くとさらに酷い目に遭うため、黙って必死に耐えるしかなかった。
 私は兄に怯え、機嫌を損ねぬよう口数は減っていった。
 今だから言えることであるが、兄が悪いわけではない。
 兄もまた、私より4つ年上というだけで、幼くして過酷な生活を強いられていたのだ。
 兄は12歳の身で、1人で2人分の食料を稼ぎださなければならなかった。
 危険な仕事も沢山受けたのだろう。盗みを働いたこともあったのかもしれない。いつもぼろぼろになって帰ってきた兄の姿を思い出せば、想像できる。