Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 私の両手には、何もない。
 使い慣れた短剣も、ようやく振り回せるようになった、あのショートソードも。
 これでいいのだ。
 私は訓練と同じように、頭にイメージし、念じた。
 大丈夫。ネモが教えてくれたとおりにやれば、私にはできる!
 こちらに突き出される2本の槍。
 それを、ギリギリで見切ってかわす。
 ちゃんと見える! 相手の攻撃が、敵兵の槍の穂先が!
 私は、すれ違いざまに、流れるような動作で──
 今っ!!
 私の攻撃は、彼ら2人の脇腹を、確かに斬り裂いた。
 彼らの着ていた皮鎧など、問題にならない。
 私の左右の手には、赤く輝く2本の刃が生まれていた。
 なぜなら、この刃は金属でできた鎖帷子さえも、軽々と斬り裂くのだから。
 私が生み出した魔力の刃は、鈍い輝きを放っていた。
 敵兵2人が倒れ、背中越しに、味方からの歓声が聞こえてきた。
 瞬時に味方を倒されて、坂を上ってきた3人目の敵兵は、たじろいでいた。
 足を止めている相手に、私は容赦することなく、斬りかかる。
 突き出された槍の先端を斬り飛ばすと、相手は慌てて盾を構え、身を守ろうとした。
 だが、それで矢は防げても、この赤い剣は防げない。
 私は構えられた盾ごと、相手の首筋を串刺しにした。
 呻き声をあげて、敵は倒れ伏す。
 あっという間に、敵兵3人が沈黙した。
 やった! 本当に、できた!
 体が軽い。
 緊張で体が動かなくなるのでは、という心配が嘘のように。
 ネモの言ったとおりだと思った。
 この戦い方を私に教え、磨けと言ったのは、ネモだった。

「ねえ、どうして魔力の剣を習得した後まで、わざわざ鉄の剣で訓練するの?」

 以前、彼に尋ねたことがある。
 彼の教えてくれた魔法、魔力で作り出されたこの赤い剣は、充分な長さを持ちながらも、重さが全くない。
 それゆえに、これ以上筋力をつけずとも、片手ずつで、思い通りに振り回すことができた。

「実戦の緊張感と疲労は、お前の想像以上に体の自由を奪うことがある。だが、普段の訓練でそれ以上の負荷をかけることで、実戦では、体の軽さが疲労を帳消しにしてくれるはずだ」

 そんな彼の言葉は、まさに今、現実となって、私に力を与えてくれている。
 残りの敵兵達は、私に驚いたのか、すぐには次がやってこない。
 私は、ネモを振り返る。
 彼は頷いた。
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