Evil Revenger 復讐の女魔導士 ─兄妹はすれ違い、憎み合い、やがて殺し合う─
 解放された私は、少しでも兄の機嫌を取ろうと、消え入りそうな声で謝った。
 たとえそれが、ほとんど無駄だとわかっていても。
 兄は私の前に立つと、周囲の目などお構いなしに、いつものように私を殴りつけた。
 地面に転がる私に追い打ちをかけるため、兄が胸ぐらを掴もうとしたところで、

「おい、なにやってるんだよ!? やめろ!」

 初めて聞く声がした。
 ゆっくりと助け起こされ、そちらを振り返ると、

「大丈夫かい?」

 初めて見る、茶色の髪の青年がいた。
 それが、彼との出会いだった。
 私は彼に支えられながら、宿に戻った。
 彼は、怯える私と怒る兄を引き離し、話を聞いてくれた。
 兄以外の人と口を利くのは、本当に久しぶりだった。

「俺はスキルド。君の兄さん、ヴィレントに助けてもらったんだ」

 スキルドは、あの場に偶然居合わせたわけではなかった。兄に付いて、この街にやってきたのだという。
 私から事情を聴き終えた彼は、

「そうか……、君も大変だったな」

 気の毒そうに、そう言った。

「わかった、俺からヴィレントに話すよ。君が酷い目に合わないように」

 優しい顔で言う彼に、そんなことができるわけがないと、私は言った。

「大丈夫、あいつは俺の命の恩人なんだ。話せばちゃんとわかってくれるさ。俺に任せてくれないか?」

 そんなはずはない。兄が話の通じる人間なら、私が何年にも渡って辛い目に遭い続けるわけがない。
 きっとスキルドも兄に逆らえば、殴られ、蹴られ、出て行ってしまうに違いない。
 私はそう思っていた。
 だが、不思議なことにそうはならなかった。
 この日を境に、私は兄から殴られることはなくなったのだ。すべて、スキルドのおかげだった。
 しかし、私と兄の仲が改善したかと言われると、完全にそうとは言えなかった。
 兄と一緒にいる時は、必ず彼が間に入ってくれるようになった。
 私は彼の背中に隠れ、いつも兄と目を合わせないようにしていた。
 兄もまた、そんな私をほとんど無視するようになった。
 殴られることこそなくなったが、以前よりさらに、私達の間には距離ができた気がした。
 それでも、兄の暴力から逃れることができた私は、彼のおかげで間違いなく救われていたはずだった。
 他にも生活に変化はあった。
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