*夜桜の約束* ―春―

[27]買い物と本音

 案の定、数時間手分けをしての捜索に手掛りは見つからなかった。

 数件『ベントレー』の目撃情報はあったが、いずれも色やモデルが違い、沈んだ気持ちと表情のメンバーは、翌日になるギリギリに自分の部屋へと重い足取りで戻っていった。

 雨は明け方に止んだが、凪徒は満開になった桜がどうなったのかも確認出来る心持ちではなかった。

 一方秀成も唇を噛み締め過ぎて血の(にじ)む始末だった。

 仮眠を取りながら夜通し改造画像の洗い出しと復元を試みたが、片瀬市役所以遠の情報は得られず、お粗末な落書きを一ミリすらめくり取ることも出来なかった。

 そしてそんな二人が(あらが)うことも出来ぬまま迎えた誘拐四日目のモモは──。

「え……買い物? お、洋服を……ですか?」

「はい。ご主人様が是非にと」

 モモ達の朝食中に着替えてきたのだろう、初めて見る普段着のメイド二人に目を丸くしながら食後の紅茶で喉を潤していた。


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