*夜桜の約束* ―春―

[15]携帯と犯罪?

 日頃当たり前のようにいるメンバーがたった一名欠けただけで、こうも引き締まらなくなるものなのか。

 モモのいなくなってしまったことが腑に落ちない昼食会のメンバーは、どことなくうわの空のまま食事も打合せも大して進むことはなかった。

 だからと言って今日残す三本のショーを失敗する訳にはいかない。

 最後は無理矢理気持ちを高ぶらせてまとめ、凪徒はしばしの休憩のためにもう一度自分の車へ戻っていった。

 ──あいつ……出演していた訳じゃないんだから、携帯くらい持ってりゃ良かったのに。

 ポケットに突っ込んだ手で、口惜しそうにモモの携帯を握り締める。

 車内には秀成も他のメンバーも帰ってきてはいなかったので、何をするでもなく万年床に大の字になり、何となくその手の中の携帯を取り出した。

 初給料で買ったのだと喜んで大切にしていたのが昔のように思えるほど、角が剥げて年季の入った代物。

 上蓋に時計のデジタル表示があり、電源はまだ入っていることが見て取れる。

 思えばいつでも隣にいるのが普通だったから、一応電話番号くらいは登録していたが、何かの際にショートメールを送る程度でメールアドレスすら知らないことに今更気が付いた。


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