眠りにつくまで





樹、おはよう。

いつも通りキャンディを一粒置き、自分の口にも入れる。

元気?私ね、どうしたらいいのかな…ここ数ヶ月なんかダメなの。樹の声が聞きたいの…思い出そうとして思い出して…でも違う気がしてダメなの。それが気になって心配で…また思い出して…映像はバッチリ間違いなく思い出せているはず…でも声が…ってね、こうして目を閉じると頭がぐわんって鳴るから目を閉じるのが嫌なの。人間ってどれくらい眠れば生きていけるの?案外強いよね…しんどいけど動いているもん、私。ケーキを食べない樹が唯一食べられるって、美味しいって言ってたモンブランを今日は食べようと思ってる。食べられるかな…こんなことが心配になるくらいダメだね…来月はもっとしっかりして来るよ…会いたい…光里、こっち…って呼んでよ、樹…

キャンディが無くなるとゆっくりと立ち上がる。少しの目眩を感じ冷たい彼に手をついた…

「大丈夫ですか?」

ああ…そんな声を掛けられるほど具合悪く見えるのか…私は。

「大丈夫ですか?」
「はい、少し立ち眩みがしただけですから」

距離を取ってこちらの様子を窺う男性に会釈して顔を上げると、ここで何度か見かけた人が心配そうに私を見ていた。
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