眠りにつくまで
「ご無沙汰しております、倉田さん。お母さまとご一緒ですか?」
「いえ、母は昨日のうちに来て今日から温泉ですって」
「お元気そうで何よりです。光里、こちら俺のお参りしている倉田さんの娘さんだよ」
聖さんが教えてくれたので頭を下げた。
「では、失礼します」
聖さんが私の手を引いた時
「お車ですか?」
彼女が聖さんを覗き込むように前に出た。
「はい」
「厚かましいお願いですが、駅まで乗せて頂けませんか?」
私も駅からバスを使っていたので、彼女が寒い中で本数のそう多くないバスを待つのが嫌なのだろうと察しがつく。でも
「申し訳ありません」
と聖さんが言うので少し驚き彼を見上げる。すると彼は私の額にコツンと額を落として
「今から大切な彼女とデートなので女性を車に乗せる訳にはいきません。失礼します」
そう言い会釈するとすぐに車へ向かった。