眠りにつくまで






「聖にしては抜けてるな」
「父さん…その通りだけど言わないでくれ…仕事じゃあり得ないミスだ」
「ミスなの?」
「そうだね、確認を怠るとか思い込みは一番やってはいけないこと」
「仕事じゃないからいいんじゃない?今から聞いたって誰も困らないんだし…別にいいと思うよ?」
「光里に慰められた」

隣からぎゅうっと抱きしめられ

「ちょ…っと…聖さんっ…」

横腹辺りを押すけどびくともしない。

「それでは無理だね、光里…ゴールデンレトリバーにじゃれつかれて抵抗するチワワだ。それともアムールトラとマンチカンかな」

…えっ…お兄ちゃんの発想は私の発想とよく似ている。4月が楽しみかもしれない。

「結局夕食まで長居しちゃった」
「みんな、調子に乗ってあれこれ注文するからほとんど光里が作ってたけどな。俺のお品書きだっていうのに」
「ふふっ…ちょうど午前中に買い出ししたって言って冷蔵庫が満杯だったから注文が結構聞けたね」
「光里が楽しそうだったから止めなかった」
「うん、ありがとう。楽しかった」
「3人とも娘だ、妹だって前のめりだけど面倒くさい時は適当にあしらっていいからな」
「きっと大丈夫だと思うの」
「何となく?それとも理由がある?」
「理由はある…聖さんが私の5年前からのことを伝えてくれたあとで、軽々しく慰めたり、わかった風に言葉を掛けるのはどれも違うような気がするから何も言わないで心に留めておく、ってお母さんが言ってくれたでしょ?」
「言ってたな」
「そういう人たちだから大丈夫だと思うの」

車が都内への橋を渡りきったとき、自分で言いながらそう強く確信していた。
< 268 / 325 >

この作品をシェア

pagetop