Again〜今夜、暗闇の底からお前を攫う〜
暗示をかける日々
私の母は弁護士で、昔から厳しい人だった。

その厳しさにが父にとっては耐えられなかったのか、ある日、別の女の人とどこか遠くへいってしまった。

昔は今よりももっと男社会で、女が働くと舐められ、良い成績を残すと「女のくせに」「女だから」と散々馬鹿にされてきた。

それを母はずっと根に持っていた。

そして父には「女は働くな、家にいて夫の疲れを癒やすことが妻の仕事だろ」と最後に吐き捨て家を出ていった。

夫がいなくても、自分の稼ぎだけで娘たちを立派に育て上げてみせる。

世の中の常識に反論するように、自分の娘を更に必要以上に厳しく育てた。

「成績は必ず学年のトップでいなさい」
「男に舐められないように堂々と生きなさい」
「先生方には礼儀正しく利口でいなさい」
「頼まれたことは断らず何事にも全力でやりなさい」

その全てを守り、母のモルモットのように生きていたお姉ちゃんは大学受験の前日に家を出た。

今までの母の期待に律儀に答え、母が決めたレールの上をただ歩くだけのお姉ちゃんは、一番大事な大学受験をすっぽかし母の前から姿を消した。

その頃、私は中学二年生だった。

あれから、お姉ちゃんは一度も家族の前に姿を見せないまま二年の月日が経った。
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