カッコウ ~改訂版

2


 勢いで紗江子の誘いに乗った私に、紗江子は早速“お見合い”をセッティングした。土曜日、紗江子と待ち合わせて都心に向かう。私よりもずっと優秀な紗江子は、都内の大学に通っていた。紗江子の彼は、大学の2年先輩で今は銀行に就職しているらしい。
 「佐山さんっていうんだけど。背が高くて感じの良い人だよ。」都内で一人暮らしをしていた紗江子は4年生になって実家に戻っていた。空いた電車に並んで腰かけて小声で話す。
 「私のこと、なんて話したの?」気の置けない友人だから。私が聞くと
 「健二が佐山さんに誰かを紹介したいって言うから。私、写真見せたの。そしたら佐山さん、みどりがいいって。」と紗江子は正直に答えた。
 「えー。どの写真?」私を選んだと言う言葉にときめいて、紗江子に聞く。紗江子は携帯を開いて、
 「これこれ。みどり、可愛く写っているでしょう。」と写真を見せてくれた。夏休みに高校時代の仲間と食事をした時の写真。確かにみんな良く撮れている。
 「写真と違うって言われない?」と聞くと紗江子は笑いながら、
 「大丈夫だよ。みどり美人だから。」と言った。
誰とも付き合おうとしない私を、心配していた紗江子。私が会う気になったことを喜んでいた。
 「佐山さん、健二とは同期の中でも気が合うみたい。支店は違うけどよく会っているの。みどりと佐山さんが付き合えば、4人で出かけられるね。」紗江子は屈託なく笑う。茂樹のことを知らないから。
 もし茂樹のことを知ったら、紗江子はなんて言うだろう。正義感が強いから不倫なんて許さないだろう。きっと、すぐに別れるように言う。
 私だってわかっている。茂樹にとって、私はただの遊びだということも。茂樹が価値のある男性ではないことも。でも私は不倫をしている自分が好きだった。だから茂樹と別れることができなかった。
 茂樹が私の体だけを求めていてもいい。体も私だから。『妻のことはずっと抱いていない』と言う茂樹の言葉が嬉しかった。私は本気で茂樹が好きなわけじゃない。私の若い身体に茂樹が夢中になっていると思いたかった。自分が悪いことをしていると父のことも許せるから。
 そう思いながら1年以上続けた関係。それは何となく私をくすませていく。そして、なかなか抜けられない泥沼のように、私の足を捕えていた。でもまだ私は、そのことに気付いていなかった。






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