お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
第六章 生涯そばにいることに異議はありません
 一週間はあっという間で、気がつけば今日は金曜日だった。牧場への遠足も無事に終わりホッとする。イベントはどうしても緊張する。

 月曜日は出勤するとすぐに川島先生から謝罪があり、ぎこちなくも受け入れた。彼の目に私は、以前の自分と同じように映り、結婚生活がうまくいっていないと思えたらしい。

 勝手に同情してあんな強引な行動を取ってしまったそうだが、それで以前通りとはいかず、大知さんの忠告もあり川島先生とは業務上必要最低限の会話しか交わさないようになった。

 大知さんは私が出勤するのをすごく心配していたけれど、一年契約だし今の職場も子どもたちも大好きだから、やっぱり続けたい。

 川島先生も魔が差しただけで性根から悪い人じゃないだろうから。

 時刻は午後八時過ぎ。大知さんは夕飯はいらないらしく、逆に私は早上がりだったのでひとりでさっさと夕飯を済ませ、お風呂にも入りまったり過ごしていた。

 そしてほぼ思いつきで、久しぶりにパウンドケーキを焼いてみる。

 中身はなにも入れずシンプルなもので、生地自体はすぐにできる。オーブンに入れて三十分は経過しているので、キッチンには甘い香りが立ち込めていた。

 さっきちらっとオーブンを覗いたら綺麗に膨らんでいたので、きっとうまくできたと思う。結婚して以来、お菓子作りは初めてだ。

 大知さん、喜んでくれるかな?

 想像して笑みがこぼれる。私たちの関係がなにか大きく変わったわけではないが、自分たちの想いを伝え合って、前より揺るぎのない夫婦の絆はできたと思う。

 なにより大知さんが以前にも増して愛情表現をしっかりしてくれるようになったのはうれしくもあり、恥ずかしくて困惑するところもあった。

 行儀悪くソファにごろんと横になり、スマホを確認する。大知さんからの連絡をつい気にしてしまう。早く会いたい。一方で、先ほどの電話を思い出した。
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