お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
第四章 未必の嫉妬に揺らぐ代理の自覚
 昨日は大知さんより後に起きてしまったけれど、今朝は彼より早起きして昨夜できなかった箇所の掃除を済ませる。

 もともと片づいているし綺麗な部屋にしているつもりだが、始めると細かいところが気になって、この機会に手をつけられてよかった。

 なんとも言えない達成感に包まれ、大知さんを起こして、ふたりで朝食を取る。

「万希は直接ここに来るのか?」

「はい。一応、仕事が終わったら連絡をくれるみたいです」

 大知さんは今日も遅くならないみたいだし、私も定時で上がって真っすぐ帰宅したら問題ないだろう。ご飯の準備もバッチリだ。

「張りきりすぎて倒れるなよ」

 玄関で彼を見送ろうとしたら、大知さんが心配そうに声をかけてきた。

「千紗は昔から人をもてなすのが好きだから」

 ずいぶんと確信めいた言い方だけれどあまり自覚がない。

「そうでしょうか?」

 首をかしげると大知さんは私の頭に手を置いて、懐かしそうな表情になった。

「俺もよくもてなされたから」

 彼が訪れたとき、私がいつもお菓子を用意したりお茶を出したりしていたから? だとしたら、もてなすなんて大げさだ。あれは……。

「相手が大知さんだったからですよ」

 ほかの人なら毎回あそこまでしない。彼と話すきっかけが少しでもほしかったのもある。

 大知さんは目を細め、そっと私の頬に手を添えてすばやく唇を重ねた。

「光栄だよ、奥さん」

 余裕たっぷりに微笑まれ、そのまま家を出る彼の背中を見送る。俗に言う〝いってらっしゃいのキス〟は初めてだ。

 瞬間的に顔が熱くなる。軽く頭を振って、私も出勤の準備に取りかかった。
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