怪しげに煌めく月光に照らされた男の姿はとても綺麗で、彼に組み敷かれている状況でなければ美しさに魅了されていただろう。

 改めてこの男は、色々な意味で目の毒となると感じていた。

「もう、やだ!」

 キッと睨み付けても、男は全く怯まない。
 それどころか、愉悦の笑みを濃くする。

 目尻に涙が溜まった目で睨んだとしても、この鬼畜な男を悦ばせるだけだと理解しているのに僅かな抵抗を表してやりたかった。
 何故なら、体を動かして抵抗したくとも両手首は自分の頭上に固定され、黒光りする細い鎖で手首を合わせてぐるぐる巻きに縛られている。下半身は男に乗られているせいで動かすことも出来ない。
 着ていた服は切り裂かれ、ギリギリ大事な部位を隠すのみ。見えそうで見えない、これはこの男の性癖なのだろうか。
 今の恥ずかしい格好ならば、いっそのこと裸にされた方がいいのではないかと思う。時間をかけて服を切り裂いてくれた男は、全く服装を乱さずに着衣のままというのも腹が立ってくる。

 両手首を拘束された裸の女はベッドに転がされ、鬼畜なこの男に理不尽極まりない理由でお仕置きをされているのだから。

「んっ」

 冷たくて大きな手のひらが女の体を這う。
 やわやわと厭らしく這う長い指から与えられる甘い刺激に、ぎゅっと結んでいた女の口から堪えられない声が漏れた。
 悔しくて堪らない。両手が動かせたらぶん殴ってやるのに。

「何を……考えている?」

 耳に唇を寄せた男に低い声で囁かれて、脳が、体の中が疼いて痺れる。
 声は甘さを含んでいるのに、男の目は鋭いままなのが怖い。
 だからあれは誤解だってずっと言っているのに、もうそろそろ機嫌を直して欲しいのに彼は許してくれないのだ。

「何も、いっ!」

 男が顔を埋めた首筋に、悲鳴を上げるくらいの鋭い痛みが走る。

「痛い! かっ齧るだなんて、私は、そっちの趣味はありません。 ちょっと、止めてよ」

 首に噛み付くだなんて何て事をするんだ! と、自分を組み敷く男を睨む。
 「止めて」と訴えても男が齧るのを止めてくれないせいで、首筋は鋭く痛み皮膚が破れた傷からはトロトロ血が流れるのが分かる。

「くくくっ、たまにはこんな趣向も良かろう」

 流れる血をペロリと舐めて音をたてて啜りだした男に、彼女の体温が一気に下がった気がした。

「こっの! 鬼畜! 変態! 鬼! 悪魔! おたんこなす! ばかー‼」

 おたんこなすとか何をいっているのかと、思いつつも本気で泣き出した女に、覆い被さっていた憎たらしい程に綺麗な男は小刻みに肩を振るわして笑うのだった。

(ああ……何故こんなことになったのだろう? こんな事になるのなら、彼に捕獲させる前に借金をしてでも引っ越せば良かった)

 泣きながら、彼女は何度目かの後悔をするのだった。