くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?

これにてハッピーエンド?

 職場を退社した三日後、借りていたマンションの部屋の退去時手続きのため、理子は元の世界へと戻って来た。

 ただ今回は、理子一人ではなくシルヴァリスも一緒だ。

 オーダーメイドの上質なスーツを着て、髪は黒に近いグレーに、瞳の色は明るい茶色へと変化させたシルヴァリスは、一見すると北欧系の色白の外人男性に見える。
 背も高いしスタイル抜群の彼が近くにいたら、男女問わずに見惚れてしまうのも仕方がないかと納得するくらい、シルヴァリスは見目麗しい。
 隣に立つのが平凡平均的な体型な自分なのだから、釣り合わない気がしてそっと彼の横顔を見ながら理子は軽く落ち込んだ。



 部屋の状況をチェックしに来た、管理会社の若い女性従業員と大家さんの中年女性は仕事そっちのけで、シルヴァリスへ熱い視線を送っているのも仕方がないかと、少しモヤモヤしながら理子は確認書類にサインをする。


「お世話なりました」

 特に補修箇所も無く、鍵を返して退去手続きは終了した。
 結婚のために退去すると伝えれば、管理会社の女性従業員の視線は険しくなったけれど、大家さんからは選別の煎餅詰め合わせまでいただいて和やかに見送って貰えたから良しとする。


 
 今回、この世界へ二人で来た目的の一つが片付き、もう一つの目的である実家への挨拶に行くため理子達は駅へと向かった。

 電車に乗ってみたいという、シルヴァリスのお願いをきいて電車で向かうことにしたのだが、駅のホームに着いた時点で早くも後悔していた。


(……目立ってる)

 モデル以上のルックスの持ち主、人外の美貌のシルヴァリスが電車待ちをしていたら注目されるのは仕方がないと思う。
 此方の世界で魔王が人に擬態して異世界を楽しんでいる姿とかレア過ぎて、実は理子が一番じろじろ見ているのだが、兎に角彼は目立つ。

「どうかしたのか?」

 時刻表を珍しそうに眺めていたシルヴァリスが振り返る。
 自分達の方を見たと思ったらしい、理子の近くにいた女子高生達がきゃあと色めき立った。

「いや、周りの目が気になって」

 周囲からの羨望の眼差しを完全無視して、理子の傍までやって来たシルヴァリスへ小声でそう伝える。

「気にするな」

 涼しい顔で言うシルヴァリスの腕が理子の腰へと回される。
 その瞬間、周りの女性達から向けられる険のある視線が理子の全身に突き刺さってきて、逃げ出したくなった。

 顔色を悪くする理子を見て、クツクツ笑うシルヴァリスは絶対に今の状況を面白がっているはず。周りの目もあり、文句を言いたくなるのをグッと堪えた。



 ホームにやって来た電車に乗り、横並びの席に座ろうとした理子の腕をシルヴァリスは引くと、七人掛けの席の一番端へと座らせる。
 ご丁寧に腰を抱いたまま隣にシルヴァリスが座った後、次々と男性達が席へと座った。

「お前は本当は隙だらけだな。リコの隣を狙っている男は、一人や二人ではないようだぞ」

 耳元に唇を寄せて囁くように言われた台詞に、耳を疑った理子は「なんで?」と間抜けな声を上げてしまった。


 ブーブー
 首を傾げた理子の耳に、メッセージの着信を告げるスマートフォンの振動音が届く。

『お父さんから聞いていたけど、結婚するって本当だったんだ! もうすぐ着くの?』

 届いたのは、キラキラした絵文字やスタンプ満載の姉からのメッセージ。

『もうすぐ駅だよ』

 長文を打つのが面倒になって、文字のみの簡潔な一文で返す。

『彼氏って前、話していた気になっている人? 爽やか系とヤンデレ、どっち?』
『ヤンデレの方だよ』
『えーヤンデレとは仲良くなれる自信無いなぁ』

 こちらとしても、シルヴァリスが嫌いなタイプの姉と仲良くしてもらうつもりは微塵もない。勘違いした姉がしつこく言い寄り、魔王の不興を買ってしまい灰にされないようにと気を使わなければならない。
 考えるだけで、頭が痛くなってきて理子は眉間に指を当てた。



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