くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「それに」

 くくっ、と声を出して笑った魔王は、意味深な笑みを浮かべる。

「我は、女には不自由していない。強い魔力を持つ魔族の女とて、我と同等の魔力を有していなければ、魔王の、我の精を受け入れた途端、内側から魔力による崩壊をおこし死ぬ。中には死んでもよいから我に抱かれたい、と望んですがり付いてくる愚かな女もいるがな」
「愚かって、モテモテなんですね。っ、……魔王様?」

 元々人外だけど、人でなしで女タラシな発言に呆れて魔王を睨んだ理子は、彼の瞳を見てハッと息をのんだ。
 彼の赤い瞳には何の感情も表れて無く、暗くくすんだ硝子玉のような鈍い光を放っていたから。

「リコ、我はそれなりにお前と過ごす一時を気に入っている。時折、素直で頭の悪いふざけた言動に驚かされ苛立つこともあるが、下手な観劇を観ているよりお前を見ている方が余程面白い」
「何それ、面白いって私は珍獣ですか。一応、私は人なんですけど」

 女として好ましいと思われてないのは、まぁいい。
 よくあるファンタジーな異世界転移の話の、魔王に気に入られて「嫁になれ」とか言われてしまうよりはずっといいはずだ。

 でも、魔王の面白いって意味は、人として気に入られているのではなく、所謂愛玩動物に対するものじゃないかなと首を傾げた。

「そうむくれるな。本心を隠して媚を売って近付いてくる者達や、我の魔力に魅了されて擦り寄ってくる鬱陶しい女達より、リコ、お前と話している方が気が休まる」

 言っていることは不遜なものなのに、彼の瞳が寂しそうに揺れて見えて理子は「ううっ」と呻いてしまった。

「わかった……じゃ、じゃあ、私は端で寝るから魔王様は真ん中で、」

 言い終わらないうちに、魔王の腕が理子の腰へと回される。

「ちょっ⁉」

 抱き寄せられたと理解した途端、体が浮いて視界が上向きになる。凝った細工が施された高い天井と、至近距離から見下ろす魔王の顔。
 横抱き、お姫様抱っこをされていると理解した理子は、ボンッと音をたてて耳まで真っ赤に染まった。

「抱き心地は、なかなか良いな」

 固まる理子の耳元へ、唇を近付けて感想を述べる魔王は絶対面白がっている。
 太股の下に回している腕がモゾモゾ動いて、魔王は手のひらで太股を撫でた。

「ひっ、撫でないで! 抱き心地って、プニプニしているってこと?」
「さて、どうだろうな」

 お姫様抱っこでベッドまで運ばれた理子は、シーツの上を這って端まで逃げようとしたが、直ぐに魔王の腕の中に捕まってしまった。
逃げられないのなら、せめてもの抵抗として魔王に背を向けてやる。

 フッと笑う気配と共に、理子の腰に腕が回された。
背中に当たる魔王の息遣いと、密着しているところから伝わってくる低めの体温。
 理子の体温と緊張して早鐘を打つ心臓の鼓動は、魔王に伝わっていることだろう。

(まるで、抱き枕の気分だわ)

 誰かと、男の人と添い寝をするのは学生の時以来だ。
 社会人になってからは仕事が忙しくて、気持ちに余裕が無くて彼氏はずっといない。

 誰かにくっついて寝るのは恥ずかしいし、一人で眠る方が清々寝られると思う。でもそれは理子の自室だったらの事。

(こんなに暗くて静かで広い部屋に広いベッドじゃ、一人で寝るのは寂しいかもしれないな)

 背中にくっついている魔王は、綺麗な外見と魅了の力で女性には不自由はしないと言っていた。
 それならば何故、理子を抱き締めて寝ているのか。
 人肌が恋しいなら、わざわざ異世界から召喚しなくとも適当な女性と寝ればいいのに。

 壁の穴を通して聞こえた女性の悲鳴。
 女性と閨を共にする度に求められるまま抱いて、抱いた相手は行為の後に死ぬ。
 それは、魔王だから罪悪感はあまり無いかもしれないが、そんな行為を繰り返したら虚しくて苦痛にしかならないのではないか。
 暗い光を宿した瞳の意味を分かった気がした。

(魔王様、あなたは寂しかったの? だから私を此処へ召喚したの?)

 ぐっすり眠ること以外、何も求めない相手を。……なんて、とても聞けない。

 代わりに、腰に回された大きな手のひらにそっと触れてみる。
 触れたら直ぐに、理子の手は大きな手のひらに包み込まれてしまった。

 低い体温が心地好くて、重さを増してきた瞼を閉じる。

 何時しか理子の意識は、心地好い眠りの淵へと沈んでいった。
< 29 / 153 >

この作品をシェア

pagetop