くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?

3.嵐のような一日

 枕元に置いた携帯電話から、目覚ましアラームの音が響き渡る。

 アラームが鳴るとほぼ同時に覚醒した理子は、スマートフォンに手を伸ばして繰り返されるアラームを停止させた。
うーん、と伸びをしつつ、ベッドから上半身を起こしてから「あれっ」気が付く。

(しまった。今日は休みなのに、アラーム機能を解除するのを忘れていたのね)

 二度寝をしようかと理子は体を動かして、身に纏う布地のサラサラとした滑らかな肌触りにハッとした。

「戻って来ている……」

 自分で買った覚えの無い、肌触りの良い白いネグリジェと肌と髪から仄かに香る薔薇の香り。
 これらが、昨夜の出来事は夢じゃなかったということを物語っていた。

(昨日は、伊東先輩達と夕飯を食べに行って、山本さんと手を繋いで、お風呂に入れられて、魔王様と……)

 昨夜の出来事を思い出していくうちに、ボンッと音をたてて理子の顔は真っ赤に染まる。

「うわぁ~!」

 熱が集中する熱い頬に、手のひらを当てた理子は叫んで枕に顔を埋めた。

 魔王様相手に何ということをしてしまったのだ。
 散々喧嘩吹っ掛けて最後は泣くとは嫌な女そのものじゃないか。
 あれだけ不敬な態度をとったのに、魔王は許してくれて此方の世界へ理子を戻してくれたのだ。

「でも、アレは何なのだろう?」

 ほんの一瞬だったけれど、額へ触れた感触は唇だった気がする。
 何故、魔王は理子の額にキスをしたのだろう。
 額にキスされた上に、涙を舐められるなんて。
 不敬罪だ、と処刑とか牢屋へ入れられなくて助かったが、キスをしてきた魔王の考えている事が分からない。
 そして、おかしいのは理子自身もだった。

 銀色赤目の綺麗な魔王は、異世界の恐ろしい存在だ。彼の機嫌を損ねたら処刑か監禁宣言をされるのだろう。それなのに、キスされて彼に触れられて嬉しかったなんて。
 キスが額だけじゃ、物足りないと思ってしまったなんて……有り得ない。

「私が気になる人は、山本さんなのに」

 もしも山本さんとお付き合いできたら、幸せな未来を描けそうだ。けれども、冷たい瞳をした魔王から恋人の殺害、監禁宣言をされてしまっては気軽に男性と付き合えない。

(他の抱き枕役か、魔王様にお嫁さんが出来れば解決、私は不用になるのでは?)

 今度、婚活本でも買って魔王に差し入れしてあげて、魔王に素敵な奥さんが出来るように婚活を勧めてみよう。
 ベッドに寝転んだまま、スマートフォンを手に取り婚活サイトを検索しようと画面ロックを解除して、メッセージアプリの受信に気が付いた。

「げっ」

 メッセージを送信してきた相手の名前欄を見て、理子の目は吊り上がり三角となる。
 送り主の名前から、メッセージを表示させなくとも内容は予想できたが、一応確認して理子の顔は渋面になっていく。

「こっちに来るんだ」

 メッセージには、電車の到着時刻とキラキラゴテゴテしたスタンプがセットについており、こめかみが痛くなってきた理子はスマートフォンから手を離して、両手で顔を覆った。
 無視したら単語だけのメッセージとワンギリの嵐、更には母親からの怒りの電話がかかってきて、面倒臭いことになる。

 痛みが増していくこめかみを押さえながら、理子は身支度をするためにベッドから這い出た。
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