極上の愛に囚われて

 彼が小栗ホールディングスの御曹司と知ったのは、彼から聞いたのではない。偶然の出来事だった。

 ホテルのラウンジで地元作家が主催する展示会の打ち合わせをしているとき、偶然耳にしたのだ。

『わぁ、見て。あそこにいらっしゃるの、小栗ホールディングスの御曹司じゃない!?』

 ラウンジでお茶をしていた女性二人組が、タレントを見るような雰囲気でロビーのほうを見ていた。

 小栗ホールディングス……? まさか……。

 同じ姓なのでドキッとしたけれど、翔さんのことではないと思ってそのときはロビーのほうを確認しなかった。

『やっぱり素敵ねぇ』
『お仕事でいらしたのかしら?』

 女性二人組は変わらずにキャッキャッしている。素敵という言葉を聞いても、翔さん以上の人はいないと思っていたから、興味は湧かなかった。

『間宮さん、有名人がいるみたいですね』

 私と一緒にいる地元作家さんも興味津々な様子でロビーを見るから、私もつられてそちらに顔を向けて、思わず「えっ!?」と声を上げてしまった。

 御曹司って、翔さんだったの!?
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