死んだはずの遠藤くんが教室に居る話
 先生には見えない.
 えっ?そんなことってアリ?
 だってこんなにはっきりと僕らには見えるのに、どうして見えない?

 大げさに長く息をふーっと吐き出し、40代の数学教師はぐるりと教室を見渡して「かわいそうに」とつぶやいた。

 かわいそうに?って、どーゆこと?

「トラウマよね。せっかく同じ高校に入学してこれからって時に命を落とすなんて、同じクラスの仲間ならショックになるのは当たり前なの」
 カツカツと黒いヒールで先生は遠藤くんの席に向かった。

「これって、誰が書いたの?ふざけすぎでしょ」
 先生は遠藤くんの机を優しく撫でながら、あろうことかそのまま遠藤くんの座っている椅子の上に腰を下ろしたので、教室中にすごい悲鳴が響き渡り先生は驚いて立ち上がった。

 すごい。
 見事に遠藤くんの身体の中に先生の姿が入り込み、こちらから見ると透明なイラストが重なったように見えた。

「幽体離脱」
 僕の隣で大きな身体を震えながら坂井が言うので、僕は「逆パターンのな」と、小声で返事をした。
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