暗い暗い海の底
4.
◇◆◇◆

 連絡は携帯アドレスのメールのみ。メールを読んだらすぐに削除する。無料通話アプリは使わない。

 それが、私と彼の約束事。

 そもそも私はスマホを持っていない。夫が、私が他の人間と連絡を取り合ったり、SNSで繋がったりするのを嫌がっていたからだ。夫と共有のパソコンはあるのだが、それも夕飯のメニューを調べたり、ニュースを見たりするくらい。もちろん、閲覧履歴を確認されているから、こっそりと誰かと繋がることはできない。

「お前はヒレを失った人魚のようだな」と、幾度かの逢瀬の後、彼は私に言った。

「え?」
 彼の腕に抱かれながら、私は彼の顔を見上げた。
「声を犠牲にして王子様に会いにいったのに、王子様は人魚じゃなくて他の姫と結婚するから」

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