暗い暗い海の底
1.
◇◆◇◆

「肉、焼けたか?」
 声をかけられ、私ははっとする。

「はい。そろそろ皆さんに食べてもらっても大丈夫ですよ」
 私がそうやって笑顔を浮かべて答えれば、相手も満足そうに微笑み返す。

「君を無理矢理連れてきてしまったところがあったから、少し心配だったんだ」

「いいえ。みなさん、とてもいい方たちですから。私も楽しんでいます」

「それはそれで少し灼けてしまうのは何故だろうか」
 彼は私の腰を優しく抱いてから、離れていく。それは他の人たちを呼ぶために。

 今日は彼の会社の同僚たちと、川岸でバーベキューを楽しむために来ていた。大型の連休ということもあり、彼が声をかけたら部下やら仲間たちがこぞって参加表明をしてくれたとか。そのように人から好かれている彼を誇らしく思うと共に、心の中では「彼の上っ面に騙されている愚かな人たち」とその仲間たちをけなす。

「おーい、肉が焼けたぞー」
 彼が声を張り上げれば、川の近くで遊んでいた仲間たちが「おー」と返事をしてこちらに向かってくる。

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