暗い暗い海の底
2.
◇◆◇◆

 私が彼と結婚をしたのは、学生の頃の知人の紹介だ。いい男がいる、という知人の言葉を鵜呑みにした。実際、出会った彼はいい男だった。身なりも清潔にしているし、身に着けているものもダサくは無い。私だって妖艶な美女というわけではないが、それでも生涯を共にする伴侶として、相手は見定める必要があると思っていた。

 相手も私に好意をもってくれたことに気付いた。

『大人しい子が好みなんだ』
 と恥ずかしそうに彼は口にしていたが、その言葉の裏に隠された意味を知ったのは結婚してからになる。

 大人しい子、それは彼に従順な子、という意味だった。

 彼が言うことは正しい。彼が言うことは絶対。口答えすることは許されない。全ての決定権は彼にある。

 そこで、私の意思は奪われた。
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