チューリップラブ
3月、玲央はいつもと同じように
「乃愛、鍵掛けろよ。じゃあな…」
そう言い私の部屋を出た。私が鍵を掛ける音を聞くと彼はドアを二度ノックして帰るんだ。ただこの日、彼はドアを三度ノックした。それが彼を見た最後だ。
私は大学卒業後、ワーキングホリデー制度を利用してアイルランドとイギリスに滞在した。お金を貯めては、そこから他のヨーロッパ各国へ足を伸ばす。そして、私のチューリップ好きと雑貨好きを満たしてくれるオランダへ渡る。
オランダでは直接雇用をしてもらえるように動いて、まずはレストランでの仕事をしながら雑貨屋を巡っていった。そして自分が持ちたいと思うイメージの店にたどり着くと、そこへ通いつめる。我ながらすごいパワーだと思うこともあったが、その時ふと‘玲央でもこうするよね’と思った。
そこで働かせてもらいながら、商品の仕入れ先の人たちに日本へ輸入したいとお願いする。小さな注文に対応してくれるところは少ないが、しつこい日本人に負けたように3社が応じてくれることになった。
私、自分で切り開いたよ…玲央。今どこにいる?日本へ帰国する飛行機の中で彼にも繋がる空をずっと見ていた。