チューリップラブ
頃来





トートバッグに見えるが実は薄いキャンバス地のエコバッグという愛用品にいくつかの商品を入れて店を出る。ドアには

‘昼休憩中です。2時頃戻ります’

というメッセージプレートをぶら下げた。これは今までにもやむを得ず平日に銀行へ行く時などに使っているものだ。

時間は12時。目指すはいつも私が行く花屋さんだ。

「こんにちは」
「こんにちは、いらっしゃいませ。栫井さん、ちょっとお久しぶりかな?」
「そうですね…あっ…あれ、八重咲きのチューリップですか?」
「そうそう。今朝手に入れたよ。輸入品の中でも珍しい品種だよね」

父親ほどの年齢のオーナーが嬉しそうに話す。

「綺麗だけど…ちょっとお高い…1本だけもらおうかな?」
「十分存在感あるからね」

玲央にもらった赤いチューリップとも相性の良さそうな色合いだと思いながら、今日の本来の目的をオーナーに切り出す。

「実はひとつ聞いていただきたいお話があるんですが、少しお時間よろしいですか?」
「お客さんがいないからいいけど、何だろう…怖いなぁ」

ちょうど奥から出てきた奥さんが同じように

「何だろう…想像できないわね」

とにこやかにおっしゃる。

「私が提案するのは僭越ながらと言うしかないのですが…仕事のご提案です。聞いていただけますか?」
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