カラスのカー太郎は、自分の巣のある大きなエノキの木の上から、するどい目をギラッとさせました。
「むむっ、あれは!」
カー太郎がぴくっと体を動かしました。
何かキラキラ光るものが、ふんわり、ふんわり飛んできて、焼き肉屋の前のアスファルトの道路の上にポワンと落っこちたのです。
「いまだ!」
カー太郎は巣を足でけ飛ばすと、ジェット機さながらの勢いでビューンと、そのキラキラ光るものに突進していきました。
そして、くいっとくちばしでくわえると、自分の巣に持ち帰りました。
「フフフ、これでまた、コレクションが増えたぞ」
カー太郎は、そうほくそ笑みました。
カー太郎はキラキラ光るものが大好きで、たくさん集めているのです。
ぽとっとくちばしにくわえていたものを巣の上に落とすと、
「はにゃ、ふにゃ、目が回るよぉ。ここはどこ?」
小さなキラキラひかる緑色のものがしゃべったので、カー太郎はびっくりしました。
「お、おまえ、なにやつ?」
カー太郎が後ずさりしながら聞くと、
「ボク? ボクはコガネムシのカネスケだよ。向こうの遠いお山から、この大きなエノキの木のところまで、冒険しにきたんだ!」
「なに? コガネムシ? なんだ、あんまりキラキラ光ってるから、てっきりお宝かと思ったぜ。お宝じゃないんなら、用はない。さっさとおうちへ帰んな」
カー太郎はおもしろくなさそうに、プイッと横を向きました。
「えー、そんなこと言われても、ボク、おうちへの帰り方、わかんないよ」
「なにぃ?」
カー太郎があきれた顔で言いました。
「じゃあ、いったいぜんたい、どうしようっていうんだい」
カー太郎が、プリプリと怒りながら言いました。
「えーっとね、うーんと、お父さんとお母さんに、大きなエノキの木のところまで冒険してくるって、ちゃんと言ってきたから、ボクが帰ってこなかったら、心配して迎えにきてくれると思うの。だから、お父さんとお母さんが迎えに来てくれるまで、ここにおいてくれない? ねぇ、おじちゃん?」
「お、おじちゃんだぁ?」
カー太郎はびっくりして目を白黒させました。
だって、おじちゃんなんて呼ばれたのは、今日が生まれて初めてなんですから。
カー太郎は、かるーくショックを受けながら、
「お、おじちゃんって、オイラはまだ、ピチピチのヤングなんだぜ。見ろよ、この羽のツヤを。このくちばしのするどさを」
カー太郎がボソボソとそう言うと、
「あー、ボク、なんだか疲れちゃった。おじちゃんの羽の中で休ませてね」
コガネムシのカネスケは、そういうと、カー太郎の羽の中にもぐりこんで、スースーと眠ってしまいました。
「あっ、おい、こら!」
カー太郎があわててカネスケをくちばしでそーっとつつきましたが、カネスケはぐっすり眠ってしまって、起きる気配がありません。
「ちっ、まったく、しょうがねぇなぁ」
ふーっとカー太郎はため息をついたのでした。
そうこうしているうちに、カー太郎もウトウトしてきました。
遠くから、きれいな歌声が聞こえてきます。
「コガネムシは金持ちだ~金蔵建てた蔵建てた~」
カー太郎は、ハッと目を覚ましました。
「コガネムシは金持ちだ~金蔵建てた蔵建てた~」
エノキの木の下を人間のおばあさんがのんびりと歩いて歌を歌っています。
「コガネムシは金持ちなのか? ってーことは、カネスケは金持ちのボンボン?」
カー太郎は自分の羽にうずくまって、クークーと寝ているカネスケをまじまじと見つめました。
「ふわぁ、よく寝たぁ」
そう言って、カネスケがカー太郎の羽の中からもぞもぞと出てきました。
「お、お、おや? カネスケぼっちゃん、お目覚めですか?」
カー太郎が両方の羽でてもみをしながら言いました。
「ぼっちゃん?」
はて? というふうに、カネスケが首をかしげました。
「カネスケぼっちゃん、よくお眠りになられたので、おなかがすいたでしょう? で、ぼっちゃんは、どんな食べ物がお好きでごじゃりますか?」
なれない敬語を使いながら、カー太郎がたずねました。
「え? 好きな食べ物? そりゃあ、やわらかい葉っぱに決まってるよ!」
カネスケが答えました。
「やわらかい葉っぱですね! よしきた、ほいきた! それ、ひとっ飛びで取ってまいりましょう!」
カー太郎は目にもとまらぬ早さで巣から飛び立つと、近くにある木をかたっぱしから回り始めました。
「うーむ、この葉っぱはどうかな? いや、これじゃあ、ちょっと固いかな。こっちの葉っぱはどうだろう? うん、これならばっちりだ! イヒヒ、金持ちのカネスケをいっしょうけんめいもてなせば、きっとカネスケのお父さんとお母さんが、オイラにキラキラの宝物をくれるにちがいない」
カー太郎はにんまりと笑いました。
「わぁ、おいしい葉っぱだね。ボク、こんなにおいしい葉っぱを食べたの、初めてだよ」
カネスケがむしゃむしゃと葉っぱをほおばりながら言いました。
「そうですか、そうですか、そりゃあ、よかった!」
カー太郎がうれしそうに言いました。
「ああ、おいしかった。ごちそうさまでした。じゃあ、今度はお礼に、ボク、おじちゃんにマッサージをしてあげるよ」
「え?」
カー太郎がきょとんとしていると、カネスケはカー太郎の目と目の間を、その細い手で、カリカリ、カリカリとマッサージをし始めました。
「あっ、いや、こらぁ、そんなこと、ぼっちゃんにさせるわけにはまいりませんよ」
カー太郎があせってそう言うと、
「いいの、いいの、気にしないで」
カネスケが言いました。
このカネスケのマッサージが思いのほか気持ちよくて、カー太郎は、つい、グーグーと居眠りをはじめてしまいました。
そんなこんなで、三日ほどたったある日のこと、カネスケのお父さんとお母さんが、カネスケを迎えにやってきました。
「このたびは、息子が大変お世話になりました」
「いえいえ、そんな、たいしたこたぁ、ございませんぜ」
カー太郎が照れながら言いました。
さて、どんな宝物をくれるのかなとワクワクしながら。
「あの、これは、お隣に住んでいるフンコロガシさんからいただいた、フンです。私どもは口にしたことはございませんが、フンコロガシさんによると、たいそうおいしいものだそうです。ぜひ、お礼にこちらをおおさめくださいませ。それでは」
そう言って、カネスケ親子は遠いお山に向かって、ブーンと飛びさって行きました。
「バイバーイ、おじちゃん! また、遊びに来るよ!」
カネスケが手をふりながら飛びさっていくのが見えました。
残されたのは、口をぽかーんと開けた、カー太郎が一羽。
「な、な、な、」
カー太郎のくちばしが、みるみる真っ赤になっていきました。
「なんだ、こりゃーっ!」
カー太郎はフンコロガシのフンをにらみつけながら叫びました。
「お宝はどうしたんだ! お宝は!」
カー太郎は、がっくしと肩を落としました。
「ああ、ああ、そんなバカな」
その日、カー太郎はしょんぼりしながら眠りについたのでした。
夢の中で、カー太郎はなんだかとてもいい気分でした。
「おじちゃん、ここは、どう?」
ああ、そうです。
夢の中で、カネスケがマッサージをしてくれているのです。
「ああ、ああ、とても気持ちよござんす」
カー太郎はうっとりと返事をしました。
翌朝、カー太郎は目を覚ますと、きのうのがっかりした気持ちはどこへやら。
なんだか、とても気分がいいんです。
「そうだなぁ。カネスケのいた三日間は、なんだかんだいっても、楽しかったなぁ」
そう言って、カー太郎は遠いお山の方を見ました。
今度、カネスケはいつ遊びに来るのかなぁ。
宝物はもらえなかったけれど、カー太郎の心の中は、キラキラ、キラキラ、思い出がかがやいたのでした。