白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫は勘違いに頭を悩ませる

宿に帰り、ディアナを部屋に送ると「ありがとうございました。おやすみなさい」と、頬を染めてお礼を言ってくれた。

結婚してから、仕事で一緒に住めなかった夫を責めることもなく優しく微笑んでくれるディアナは、素晴らしい女性だと感謝すらある。

だが、6年経ちやっと帰って来た夫といきなり夫婦の営みを強制することは出来ない。
ディアナを大事にしたくて部屋も別々に取り、隣の部屋に戻るとルトガーが報告のためにソファーに座り待っていた。

「ルトガー。大変だ。恐ろしいことが起こっている」
「どうしたんですか? 奥様と夫婦生活を始めると悦に浸っていたじゃないですか? 何故部屋が別々なんですか?」
「悦になんか浸ってないぞ。ディアナに会えるのを楽しみにしていただけだ」
「はぁ……そうですか。アスラン殿下は、フィルベルド様に気を遣って休暇を取ってくださったんですから、休むなら今のうちですよ? 休暇中は、城から出ないようにしてくれているんですから……」
「そんなことはどうでもいい!! ディアナに仕送りが届いてなかった! しかも、ディアナには恋人がいる!! あんなに可愛いんだ。絶対に誰かが見初めるとは思っていたが……嫌な予感が的中してしまっている!」
「どこを突っ込んで欲しいんですか?」

呆れたように、ルトガーは報告書をソファーのテーブルに出した。

「放火もどうなっているんだ!? 仕送りも届いてなかったし、ディアナが狙われていたんじゃないのか!?」
「……可能性はありますけど、どうでしょうか。ディアナ様も現在調べていますけど、どうやら社交界では笑い者だったみたいですね」
「ディアナが!?」

ルトガーと向かい合ってソファーに座り、報告書に目を通す。
放火は、いきなり火が燃え広がった可能性が高く、通報によればいきなり俺のアクスウィス屋敷が明るくなるように火事になったと書いてある。
一瞬で燃え広がるなんて、魔法で燃えた可能性が高い。そうならば、放火で間違いない。

報告書に目を通している間も、ルトガーはいつものことで気にすることなく話を進める。

「社交界で笑い者だったのは、フィルベルド様が隣国から帰ってこないからですよ。まぁ、仕事なので仕方ないですけど……フィルベルド様が次から次へと婚約の申し込みを断っていたから逆恨みもあったでしょうけど『形だけの結婚だ』と噂されていたそうですよ」
「クッ……なんてことだ!!」

バンッと、目の前の机を叩きつけていた。それに淡々とルトガーは見ている。

「馬鹿力で机を壊さないでくださいよ」
「それどころではない!!」
「誰もフィルベルド様が、ディアナ様に夢中だと知らないから仕方ないですよ。結婚の理由が令嬢たちを遠ざける為なのに、結婚したその日にディアナ様に好感を持って、それから一途に思っているなんて誰も想像がつきませんよ。俺でさえ、驚いたんですから……」

結婚した理由は、令嬢たちからの婚約の申し込みを避けるためだった。
いずれ結婚をする必要はあるが、仕事である騎士は辞められなかったし、辞めるつもりもなかった。

次期公爵となる俺に、婚約を申し込んできた家には、娘可愛さから『いずれ騎士は辞めるのだから、すぐに辞めてはどうだろうか』と進言してくる貴族もいた。こんな事を親に頼むような令嬢たちには好感など湧くはずも無く、その上、言い寄って来る女たちにもうんざりしていた。

父上からは、『結婚をしないから、次々と縁談がくるんだ。嫌なら、結婚しろ』『隣国ゼノンリード王国に殿下と行くなら、そちらでも夜会にも出るはずだ。お前なら、必ず言い寄って来る令嬢は必ずいるぞ』『私も、縁談の申し込みが多くて困っているぞ』と言われて、腹ただしい不快感が沸いた。

『なら、結婚します。条件は、何も俺に求めない令嬢でお願いします。どうせ、すぐに仕事で殿下と隣国に行きますから一緒には住めません。それでも、何も言ってこない家でよろしくお願いします。その条件ならすぐに結婚します』
『また、難しい条件を出して来たな……令嬢は夫と夜会に出るから、一緒に住めない夫など嫌がられるぞ』
『嫌われて結構。そんな妻に愛情など湧くとは思えません』
『堅物にも程があるぞ……だが、結婚する気になったのならすぐに探そう……そうだな、若い令嬢ならどうだ? すぐに妻の役割をすることもないから、受け入れてくれるかもしれない』
『それは同感ですね。それなら、すぐに一緒に住めなくともご迷惑にならないでしょう』

そして、本当に父上はすぐに結婚相手となる14歳のディアナを見つけて来た。
スウェル子爵家は、金銭に困っており結婚をする見返りに援助を申し出ると結婚を了承して来た。元々援助目的だと分かれば、結婚相手に形だけの結婚だということに罪悪感は無かった。

それなのに、初めてディアナと会った時、この令嬢も言い寄って来るかと思っていたがディアナは全く違った。
むしろ、『お仕事を頑張ってください』と初対面で緊張しながらも可愛い頬を染めて応援してくれた。
上っ面の応援ではなかった。
何の損得も感じない『頑張ってください』に驚くと同時に、何も要求してこないディアナに一瞬で好感を持った。

それからは、ディアナといつか一緒に暮らせることが楽しみになっていた。
いつか一緒に暮らせるようになれば、ディアナに愛されるように努力しよう……と。

「それなのに……!!」

頭を抱えるほど、ディアナに申し訳がない。報告書の手が止まってしまう。
ハンカチを大事に探していたから、もしかして俺を気にしてくれていたのかと期待したが違った。
それでも、仕送りも無くディアナは健気に待っていたのだ。

「何故屋敷を出ていたのかは分かりませんが……そのおかげで火事から免れたんですから結果的には良かったと思いますけどね。……それよりも、遺物は見つかりませんでした」

ルトガーが、俺の手の報告書が止まったことを見て、報告書の最後のページを話した。

「あれは殿下には必ず必要なモノだ。一刻も早く探さねば、殿下の命に関わる……それに、早く見つけないとまたディアナと離ればなれになってしまうかもしれない。これ以上、何年も仕事で国を離れたくない。引き続き捜索をするんだ」
「かしこまりました」

そう言って、ルトガーは持ってきた報告書をしまい、部屋を後にした。




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