白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

妻は夫を見る

控え室に戻り、オスカーとミリアはフィルベルド様の勇姿を見るために見学席へと行かせた。オスカーは「大丈夫ですか?」と心配して聞いてきたけど、私に出来ることは無い。



フィルベルド様に愛人を作らないでください、と言うのも何か違う。

貴族なら、愛人ぐらい囲う方もいるし、何なら第二夫人だって認められている。



フィルベルド様は、まだ若いんだから仕方ない、と思い一人で特別席に行こうとすると、フィルベルド様が物凄い勢いで走ってやって来た。



「ディアナ! 遅くなってすまない!!」



少しだけの息切れが、深呼吸をしてすぐに落ち着く。騎士だから、体力には自信があるのだろう。



「……お仕事でしたら、私のことなど気にせずに……一人でも大丈夫ですよ?」

「それは、駄目だ! 君がせっかく来てくれたのに……!」

「はぁ……」



さっきと衣装が違い、きちんとした騎士の正装姿。儀礼用の隊服にマント。

先ほどとは衣装が少し違う。着替える前にあのご令嬢と逢引きしていたのだろう。



「さぁ、行こう」



そう言って、フィルベルド様が、肩に手を回して歩き出す。

これは、夫婦の距離なんだろうなぁ、と肩に乗せられた筋ばった手をチラッと見た。



進んだ先には、広い庭を見下ろす事の出来るバルコニー。そのバルコニーには、椅子が等間隔で並べられており、私の席は一番前だった。左右の席も公爵家の方や騎士団長の奥様たちだと、フィルベルド様が耳元でそっと教えてくれた。



アクスウィス公爵家のおかげで没落は免れたけど、貧乏貴族出身の私がこんな高位の貴族たちと並ぶとなると緊張してしまう。



「さぁ、ディアナ。こちらに」

「はい。フィルベルド様」



優しく席にエスコートするフィルベルド様がいて良かったと安心してしまい、一人でなくて良かったと感じてしまう。

フィルベルド様の愛おしそうな様子に、周りの貴族たちは頬を赤らめて見ている。

扇子で口元を隠し見ている方もいる。



その様子に、恥ずかしさが込み上げてきた。

さっきまで、美人の令嬢といたのにこの人は二重人格か、と突っ込みたい気持ちもないわけではない。

一体フィルベルド様はどうなっているのか……頭の中に疑問が沸いている。



「ディアナ。よく見ていてくれ。君に一番に手を振るから……」



耳元で男らしい低い声が響くと一瞬で耳元から身体がびくりとした。

恥ずかしながらも彼の顔を見ると、うっとりと見つめている。

この顔に、男らしくスマートな仕草。これで甘く囁かれたら落ちない令嬢はいないんじゃないだろうかと彼をジッと見た。



本当に一体どうなっているのか……。



「ディアナ? 見ていてくれるか?」



無言でフィルベルド様を見上げた私に声をかけてくる。



「……はい。見ていますから、頑張ってくださいね……」



そう言うと、満足気にフィルベルド様はこの場を去った。

残された私の周りには、少なからずざわつきも起きており、隣の奥様には「アクスウィス様に愛されているのね。素敵だわ」と微笑まれ、そうかなぁ……と思いながらも笑顔で返した。



こんなところで、6年も会ってなくて、しかも先ほど逢引き現場を目撃しましたとは言えない。

私は、フィルベルド様を陥れるつもりはないのだ。



結婚で援助してくれたにしても、フィルベルド様もアクスウィス公爵家も一度も援助を欠かさなかった。

この2年は、私の生活費は届かなかったにしても、それはフィルベルド様のせいではない。

他国にいたのだから、直接確認に来れなかったのは当然だ。

援助してくれた夫をそんなことで恨むような馬鹿な考えはない。



お義父様にしたってそうだ。フィルベルド様は自分のお金で私への生活費を欠かさなかったのだから、お義父様が管理するわけがない。フィルベルド様は成人しているし、親に管理してもらっている甘ったれた令息じゃないのだ。



自分の力で騎士団長にまでなり、今だってお義父様にお金を下さい、なんて言う方ではない。

私が悩まなければ、アスラン殿下に頂かずとも邸だって自分の資産で買おうとしていたのだ。



そう思うと、夫であるフィルベルド様に迷惑をかける理由はない。

頑張ってください、という言葉も無理やり言わされたものでなく、自然と出る言葉だった。



周りの『あのフィルベルド様が!?』というような視線に笑顔を崩さず耐えながら、扇子で口元を隠していると、「わぁ……っ!!」と一斉に歓声が上がる。



騎士団長であるフィルベルド様が第二騎士団を後尾に付けて入場して来たのだ。



「「「キャアァーー!! フィルベルド様よ!!」」」



会場から黄色い歓声が上がると、会場の空気に圧倒されつつも、この人が本当に私の夫なのか、と自分を疑いながらフィルベルド様を見ていた。



そして、フィルベルド様は、周りを見渡すことなくこちらのバルコニーを見た。迷いがなさすぎる。

嫌な予感がする間も無く、私に向かって手を挙げている。



「「「キャア!! こちらを見たわ!!」」」



どこからか、黄色い声が聞こえる。私に手を振ったと思うが、これがバレたら私はこの黄色い声の持ち主たちに止めを刺されそうな気さえする。それくらいフィルベルド様は人気だった。



フィルベルド様は、言った通りに私に一番に手を振り、その様子を扇子で少しだけ赤くなった顔を隠しながら見ていると目が合った気がする。

フィルベルド様もそう思ったのか、やっと私から目を離して会場全体に手を振り始めた。



その後は、第二騎士団だけでなく会場にいる全ての騎士たちが整列すると歓声が収まり、陛下に王妃様、そしてアスラン殿下と彼の兄であるクレイグ様が入場しフィルベルド様の任命式が始まった。



陛下の前にフィルベルド様が跪き、フィルベルド様の名の刻まれた白銀の騎士の剣を頂戴する。



本当なら、騎士団長になった時に任命式が行われて頂くものだったが、フィルベルド様はずっと隣国ゼノンリード王国にいたために、騎士団長の中で唯一陛下から白銀の騎士の剣を頂いてない騎士団長だった。

そのせいで、帰国してから早めにこの任命式を行いたかったのだとわかる。



実力で騎士団長になり、貴族だからといって仕事に甘えもない。この6年、勤めに励んできた結果は実っている。

それは誇らしいことだった。



他の騎士たちとは違う騎士団長だけが持つ名前の刻まれた白銀の騎士の剣は特別。それを精悍な顔つきで受け取ったフィルベルド様をずっと見ていた。







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