白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫は妻の秘密に気付く


クレイグ殿下の後宮で騒ぎを起こしたと、騎士団本部から謹慎処分の通達がやって来た。
謹慎処分の書面には、陛下のサインもある。

騎士団には、第10団までありそれぞれに団長がいるが、騎士団のトップは陛下だ。この国では、騎士団最高総括は陛下、もしくは王太子と決まっている。

だから、団長の処分には必ず陛下のサインが必要だった。

そして、その跡を継ぐのはアスラン殿下の予定だ。それは、次の王はアスラン殿下だというものだったが……今は、継ぐことが出来ないでいるままだった。


謹慎処分を受けて、イクセルと邸に帰るとオスカーは、こんな時間に帰って来たことに驚いている。


「オスカー、聞きたいことがある。……こちらはどなたかわかるな?」
「は、はい。先日いらしたリンディス伯爵家のイクセル様です。ディアナ様とお茶をしておりましたが……」

驚きながらもそう話すオスカーに、イクセルは不思議そうな顔をする。

「先日? ディアナとお茶をしたのは今日で……フィルベルド様の邸に来るのは、今日が初めてですが……」
「……? 美味しいケーキを頂きましたが……」

今度は、オスカーが不思議そうな顔になってしまった。
だが、その答えが分からずに誰もが困惑している。

「あの……奥様はどうされたのでしょうか? 本日はイクセル殿のお邸までお送りしましたが……」

そう言って、オスカーはイクセルを見た。

「ディアナは、クレイグ殿下に連れて行かれた。今は、クレイグ殿下の後宮にいる」
「……で、殿下に!? どうして……」
「クソッ……!! 一体どこでディアナを見初めたんだ!! あんなに可愛いから誰かが見初めるかと思っていたが、何故よりにもよってあのクレイグ殿下なんだ!!」

クレイグ殿下がディアナを狙っていた事に気づかず、歯がゆい思いから思わずテーブルに拳を叩きつけた。
ディアナが、どんな目に合っているのかと考えると胸がえぐられるように痛む。それと同時に秘密裏にクレイグ殿下に会っていたのかと思うと嫉妬さえしている。

「……オスカー。ディアナは、いつもだれと会っていたんだ? クレイグ殿下を見たことはないのか? あの通路は誰も使ってないだろうな?」
「もちろんです! それに、奥様は遊び歩くような方ではないですし……お茶会も今は禁止されていましたので、言いつけ通り開催していません。最近訪ねて来たのは、こちらのイクセル様だけで……」
「ですから、俺は来てませんよ……」

イクセルが、困ったように言い、オスカーはなおも話を続けた。

「奥様は、フィルベルド様の事ばかり気にしておりましたから、クレイグ殿下とお知り合いとは存じておりませんでした」
「俺のことを?」
「いつもフィルベルド様がお疲れだから、と食事のメニューにも気を遣っていましたし、ミリアが言うには、刺しゅうも丁寧に、それでいて時折微笑みながら精を出していたと……」

それを聞くといつも笑顔で迎えてくれたディアナを思い出し、胸に入れたポケットの刺しゅう入りハンカチを押さえた。

まだ、本当の夫婦になっていないから別々の部屋にいたが、毎晩と寝る前にはディアナの顔を見に来ていた。それを嫌がることなく彼女は「おやすみなさいませ」と可愛らしく言ってくれる。

俺のせいで離縁まで考えさせてしまっていたのに、いつも俺のことを考えていたことに切なくなる。



そして、オスカーがハッとしたように恐る恐る言う。

「ま、まさか、フィルベルド様の愛人疑惑に愛想をつかせて、自分からクレイグ殿下のところに……!? フィルベルド様が愛人の方と逢引きなんてするからですよ! 任命式の日まで、奥様を迎えにも来られないで……奥様は健気に待っておられましたのに……」
「愛人なんていない! おかしなことを言うな!! 俺の最愛はディアナだけだ!!」

何が愛人だ!!
 
そう思った瞬間にハッとした。
何故、俺があの日にアルレット嬢といたことがわかるのか……と。

「ち、違いますよ!! ディアナは、無理やり連れて行かれたんですよ!! フィルベルド様がいるからと言って、クレイグ殿下と行く事を嫌がっていたんです! だから、俺はすぐにフィルベルド様にお知らせに……ディアナが連れていかれる時に、クレイグ殿下の魔法で気絶してしまって少し遅くなりましたが……」

ディアナとクレイグ殿下の恋人疑惑にイクセルが慌てて止め、彼女が連れて行かれた時の様子も話してくれた。
ディアナがクレイグ殿下の魔法で眠らされ、イクセルはディアナを取り返そうとつかみかかろうとすると、クレイグ殿下の魔法で吹き飛ばされた……と。
イクセルが、血相を変えて第二騎士団に行こうとしていたから、ディアナが自分から、ついて行こうとしたのではないとわかる。

「では、一方的にクレイグ殿下が連れて行ったのであれば、奥様はクレイグ殿下とお知り合いではないのでは?」
「しかし、殿下とは顔見知りの様でした……ディアナに聞かないとどこで知り合ったかはわかりませんが……」

イクセル殿が、連れて行かれた時のことを思い出してそう言う。
確かに、クレイグ殿下はディアナのことを知った風だった。一方的にディアナのことを知っている様子には見えなかったのだ。

「あの……ディアナは、フィルベルド様のことを考えていました。あの家も引き払おうとしていましたし、仕事のご迷惑にならないようにと聞きたいことも遠慮して……」

ディアナを助けるために冷静さを保とうと抑えているが、今までに無いほど心は荒れていた。

そして、怒りの形相で考え込んでいる俺に、イクセルが気を遣いディアナの話をすると少しだけ眉間のシワが和らいだ。

「……ディアナは、何を聞きたがっていたんだ?」
「たわいないことです。知りたい古代文字があったそうでメモを見せられました。俺は読めないので、何て書いてあるかわかりませんけど……」
「何の古代文字だ?」
「すみません。気絶から目が覚めた後に、邸を飛び出して第二騎士団にむかっていたので、ディアナのバッグは置いてきたままなんです。俺ではディアナを助けられなくてすみません……」
「イクセル殿のせいではない」

彼のせいではない。ディアナをすぐに助け出せない俺のせいだ。
彼女の心を開くことさえできなかった不甲斐ない俺のせいなのだ。

「知りたいことがあれば、なんでも教えてやるのに……何が知りたかったんだ……ディアナは……」
「フィルベルド様。そのメモなら、奥様は部屋の箱のものを写していましたが……」
「あの魔法の箱か?」

ディアナは、一体何を知りたかったのだろうか?
彼女のことなら何でも知りたくて、ディアナの部屋へと行くとイクセルが呟くように言う。

「……ディアナは、続き部屋じゃなかったんですね……」
「……本当にこの部屋に来たことがないのか?」

初めてこの部屋に入ったようにイクセルがそう言った。

そして、キャビネットの上の魔法の箱を開くとメモがあり、そのメモに書いてある古代文字に愕然とした。

「あぁ、こんな古代文字でした」

イクセルが、横から見てそう言う。

「どこで、この文字を……!」

そこには、『真実の瞳』と古代文字で書かれてあった。






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