白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫は元気に壊れかけている

再度、クレイグ殿下の後宮に行ったが、ディアナには会えず邸に帰ると、ルトガーとイクセルがオスカーの淹れたお茶を飲んでいた。

「ルトガー……大変だ。ディアナに会えなかった」
「そりゃ、そうでしょう。簡単に会わせてくれるなら、後宮に閉じ込めようとしないでしょうし、フィルベルド様を謹慎処分なんかしませんよ」

ルトガーは、呆れたようにお茶を飲んだ。

「……『真実の瞳』が見つかったんですか?」
「おそらく見つかった。……ディアナが、『真実の瞳』の持ち主だ」
「待っている間に、イクセル様とオスカーから、事の詳細を聞いていましたが……まさか、奥様が『真実の瞳』をお持ちになっていたなんて……じゃあ、もしかして、あれも見えていたんですかね」

その言葉にまた背筋がひやりとした。

「ま、まさか、まだあるのか!?」
「奥様を、初めて城に連れて来た時に、フィルベルド様がアスラン殿下の代わりにアルレット嬢を馬車まで送っていた時ですよ。覚えてないんですか? アスラン殿下になりすましていたから、奥様と俺に軽くお辞儀をするだけで去っていたじゃないですか。あれもフィルベルド様に見えていたなら、愛人を見送り、妻には声もかけずに去っていったことになるかと……あの時、フィルベルド様のことを聞いていたのは、そういうことだったんですね」

そう言って、ルトガーは軽快に笑う。

「覚えている!! アスラン殿下になっていたから、ディアナを抱きしめることも側に寄ることも出来なかったんだ!!」

大変だ!!
一体何度、ディアナに見られていたんだ!!

「ディアナのところに行かねば!!」
「また行くんですか!?」
「クレイグ殿下が疲弊するまで行くぞ!!」
「ちょっと待ってください!! 牢屋行きになったらどうするんですか!?」
「ディアナのためなら、牢ぐらい破るぞ!! そんな些末なことで躊躇はできん!!」

ディアナを返してくれるまで、どんなことでもするつもりで飛び出した。
何度押しかけようが、ディアナのためなら惜しくはない。

「俺も行くから、ちょっと待ってください!!」

ルトガーが追いかけて来るのを待たずに、再度クレイグ殿下の後宮に行くと、衛兵にまた取り囲まれる。

「何度やっても俺には敵わないぞ。これ以上怪我をしたくなければ道を開けてもらおう!」
「クレイグ殿下は、今は取り込み中です!!」

幾度となくもみ合い、クレイグ殿下の後宮の衛兵は手足に包帯を巻いている。
疲れた様子の衛兵たち。後宮の衛兵たちは増員されており、交代する暇もないのだろう。

「フィルベルド団長!! いい加減になさってください!! クレイグ殿下への無礼は許されませんよ!!」

クレイグ殿下の後宮の衛兵隊長が、我慢の限界だとでも言うように怒りを露わにする。

「では、すぐに妻を返して頂きたい」
「クレイグ殿下の目に留まったのですよ。光栄なことでしょう? 奥様もご自分からいらしたのでは?」
「ふざけるな! ディアナは権力に目がくらむような女性ではない!!」

そう叫んだところで、後宮の扉が開いた。
クレイグ殿下が現れ、彼は呆れ顔で扉にもたれて腕を組む。

「……フィルベルド。また来たのかい? 君はよっぽど暇なんだね」
「ディアナに会わせてください」

ガウン姿で現れたクレイグ殿下の胸元ははだけており、細い鎖骨が見えている。
嫌な予感がした。

まるで、ディアナと閨を共にしたような姿に怒りが沸いている。

「……彼女は、今は寝ているよ。それでいいなら見せて上げるよ」

いつもと同じ飄々とした物言い。
クレイグ殿下は、いつも本心を見せない。

勝ち誇った様子だが、とにかくディアナの姿を確認したくてクレイグ殿下について行くと、一つの部屋の前で足を止めた。

「彼女は疲れて寝ているから静かにね。それと、ディアナは君のところには帰りたくないみたいだよ」

ニコリとして、扉を開けられると部屋の大きなベッドには、女性がうつ伏せで眠っている。
シーツから見える肩は衣服を身に着けておらず、髪の色はディアナと同じラベンダーピンク色だった。

その姿を見て、ギリッと歯ぎしりをする。

「……っ不愉快だ……!」

そう言って、踵を返した。

後ろには、やっと追い付いたルトガーがベッドの上の女性を見て絶句している。

「もう来ないでくれるかい?」
「……ディアナを傷つけたら、あなたであろうとも許しませんよ」

そう言い放つと、クレイグ殿下は扉にもたれたまま微笑を浮かべたまま俺たちが去るのを見ていた。


クレイグ殿下の後宮から邸へ帰るために、廊下を歩いていると、ルトガーが慰めようとしてくる。

「……落ち込まないでくださいね。きっと、クレイグ殿下が無理やり、」
「お前は、何を見ているんだ。あれは、ディアナじゃない」
「髪色は、奥様と同じラベンダーピンクでしたよ?」
「色は同じでも、髪質が違う。ディアナの方が綺麗だ。それに、少し見えた肩もディアナと違う」
「全然わかりません」

ディアナとは違う。彼女を間違えるわけがない。
あれは、クレイグ殿下が髪の色だけ変えた知らない女だ。

「クレイグ殿下は、手を付けたことにして俺にディアナを諦めさせようとしているんだ。だが、絶対諦めんぞ」

別の女性を、ディアナとして見せつけたということは、ディアナはまだクレイグ殿下のお手付きになっていないということ。
だが、あの様子では近いうちにクレイグ殿下のお手付きになる可能性が高い。

「何度でも、後宮に行ってやるぞ!」
「何のためにですか!? そのうち、フィルベルド様の邸に見張りがつきますよ。陛下に謁見を申し込んだ方が……」
「何日もディアナを後宮において置く気はない! クレイグ殿下に遠慮するつもりもないぞ!」

そうして、深夜になるまで何度も後宮へと通いつめていた。







< 48 / 73 >

この作品をシェア

pagetop