白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

妻の孤独と第一殿下の孤独

……クレイグ殿下に鎖を短くされて、扉までの距離は無くなった。

ベッドに繋がっている鎖は、せいぜいソファーぐらいまでしかない。

すっかり日は落ち、夜のとばりが広がる窓辺に座り、眼に触れるといまだに信じられない。
自分の眼が『真実の瞳』の能力を宿しているなんて。でも、それなら鑑定師でもわからなかったものが見えたのも納得した。

わからないのは、『真実の瞳』が珍しいからといってどうして私を後宮に閉じ込めるかだ。

困惑したままの私がいる部屋に、クレイグ殿下がやって来た。

「ディアナ。この後宮で過ごすことを決めたかな?」
「……私は、妾になるつもりはありません。……それに、フィルベルド様は……その……」

来てくださってないのだろうか、と思う。

この後宮に来てから、一度もフィルベルド様にお会いしてない。
あんなに私が最愛だと言ってくれたのに……。
フィルベルド様は、今もきっと仕事をしているのだろうと思うと、悲しくなる。
でも、仕方ない、と自分を言い聞かせる。
この6年、ずっとしてきたことだ。

彼に、期待しないで私は自力でこの後宮を出ないといけないのだろう。

「フィルベルドは、一度も来てないよ。ディアナが大事なら、すぐに来ただろうにね」
「……それは、本当ですか?」
「来ていると、期待しているのかい?」
「そんなことは……フィルベルド様は、仕事を投げ出す方ではありませんから……」

思わず、あの城にフィルベルド様はいるのだろうか、と視線を移した。
今頃は、アスラン殿下の代わりに、誰か他の女性といるのだろうか……。

「……君もアスランに大事なものを奪われているのに、何とも思わないのかい?」
「……君も? 何かクレイグ殿下は奪われたのですか?」
「……全てだよ。おかしいと思わなかったのかい? この国の騎士団の頂点は、陛下もしくは王太子がつくんだよ?」

それは知っている。だから、任命式には陛下からあの白銀の剣を賜るのだ。
それに、アスラン殿下は騎士の訓練も積んでいる勇猛果敢な方だと噂も聞いたことがある。

「……もしかして、クレイグ殿下も騎士ですか?」
「私が騎士に見えるかい?」

クレイグ殿下は、騎士たちのように筋肉質には見えない。

「……アスランは子供の頃から、健康的で剣の才もあり、騎士にいかにも相応しい王子でね……陛下たちは、アスランに期待したんだよ。私は、騎士になれなかった王子だからね」
「アスラン殿下が、お嫌いなのですか?」
「さぁ? アスランが邪魔なのは間違いないけどね」

憎しみもあるのだろうけど、どこか寂しそうにそう話したクレイグ殿下は、窓辺に座っている私の隣に座った。

「アスランのせいで、フィルベルドは君のもとへ帰って来れないどころか、連絡さえなかったんだよ。恨まないのかい?」
「……恨んではいません」
「君も私と同じうそつきだね」

見透かされたように、クスリと笑うクレイグ殿下に、自分があの6年に一人で孤独だったと知られたくなくて顔を反らした。

恨んでないのは本当のこと。でも、離縁をしてフィルベルド様に期待するのを止めて、平民として生きていこう、と決意までしたのだから……心穏やかではない気持ちはあった。
それを人は醜いとさえ思うかもしれない。そう思うと、フィルベルド様にも、誰にも知られたくない。

「……ねぇ。私と一緒に逃げるかい?」

そう言って、クレイグ殿下がそっと抱きついて来た。
フィルベルド様の時と違う。彼の時はいきなり顔が真っ赤になるほど心臓が跳ねた。
でも、クレイグ殿下は何故だか悲しくなると同時に、彼に離れて欲しくて押しのけようとした。

「逃げるってどうしてですか……とりあえず、離れてください!」
「『真実の瞳』が見つかったから、ここにいれば予言通りになるだろうね。……私は、ここが嫌いなんだよ」
「……一人で逃げるのが、淋しいのですか?」
「……別に」

急に不機嫌な様子になったクレイグ殿下は、私を押すように離した。
そして、パチンと指を鳴らしたら、部屋の灯りが全て消えた。
クレイグ殿下が、一斉に部屋の灯りの火を消したのだ。

「へ、部屋の灯りが……」
「私といると、約束しないなら君は客人でも何でもない。灯りはいらないだろう」

冷たくそう言い放つと、クレイグ殿下は部屋を後にして、私は真っ暗の部屋の中に取り残された。







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