白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

妻は塔に行く

王妃様が、塔の衛兵には私のことをお伝えしてくれるということで、当初の予定通り、先にフィルベルド様の差し入れをお渡しすることにした。

馬車に差し入れを取りに行くと、オスカーとミリアが待ってくれている。
オスカーは、フィルベルド様のいる場所も騎士団に確認してくれており、そのまま二人を連れてフィルベルド様がいるであろうクレイグ殿下の後宮に向かった。

後宮は魔法で少しずつ破壊されており、崩れる音が響いていた。

「奥様! どうされました?」

私に気づいたルトガー様がすぐに声をかけてくれる。

「お忙しいところすみません。フィルベルド様に差し入れを持ってきたのですが……」

周りに視線を移してもフィルベルド様はいない。

「フィルベルド様は、城に行かれているんですよ。しばらくすれば戻りますから、お待ちになってください」

少し考える。
急いでクレイグ殿下に会いに行って欲しいとは言われてないけど、王妃様はクレイグ殿下を気にしていたから、なるべく早く行くべきなのでは? と脳裏をかすった。

「……あの、これをフィルベルド様にお渡しください。皆さまの分もありますから」

そう言って、フィルベルド様の分の差し入れをルトガー様に差し出し、残りの皆さまの分を後ろにいるオスカーの持っている菓子袋を目で示した。

「お待ちになって大丈夫ですよ?」
「私は、今からクレイグ殿下にお会いに行くのです」
「クレイグ殿下に? なんでまた……」
「王妃様に頼まれましたし……少し心配なんです」
「一緒に行きましょうか?」
「それではクレイグ殿下は、ゆっくりお話しできないと思いますし、王妃様に頼まれたのは私ですから……少し期待に応えたいと思います」

フィルベルド様の部下であるルトガー様が、私をクレイグ殿下のところに行かせたくないのはわかるけど、塔に幽閉されているクレイグ殿下を一人にするのは、悪い考えをまた起こしそうで絶対に良くない。そう思うと、行かないという選択肢はない。

「では、行ってきます」

塔への許可が下りているのは、私だけだから、オスカーたちを置いて一人で城の塔に行くと、王妃様はすでに塔の衛兵に話を通していた。

塔の中の長い螺旋階段を昇ると、衛兵が「こちらです」と一つの部屋の前で足を止めた。
開けられた部屋には、装飾も天蓋もない一人サイズの木のベッド。本棚には、空間が目立ち木のテーブルも一人サイズの小さなものに椅子が一つ。
見るからに簡素な部屋だった。

部屋の主のクレイグ殿下は、本を読みながら窓辺に座っている。
私が部屋に姿を表すと、柄にもなく驚いたように本のページをめくろうとしたまま止まっていた。

衛兵は、「なにかあれば、すぐにお呼びください」と言ってそっと扉を閉めた。
足音が遠ざかる音がしないから、扉の前に控えていることはわかる。それでも、クレイグ殿下に気を遣い、部屋から出ていってくれた事もわかる。

「……私は、信用がないね」
「当然です。公にされてないことは多々ありますけど、クレイグ殿下の後宮はフィルベルド様の指揮のもとで現在破壊されているんですよ。クレイグ殿下が何か問題を起こしたことは周知の事実です」

アスラン殿下が呪われていたことは秘密だった。隣国ゼノンリード王国に留学したことも、本当の理由は陛下ご夫妻と第二騎士団しか知らない。
今回のことで、クレイグ殿下がアスラン殿下に呪いをかけたことを公には出来なかった。
仮にクレイグ殿下がかけたものでなくても同じことになっていただろう。

「そう……じゃあ、フィルベルドの邸を焼いたこともバレたのかな? あれは、誰にもバレないと思ったんだけど……」
「は……?」

「おかしいな……姿隠しの魔法をかけていたのに」と、とんでもないことを白状して呟くクレイグ殿下に、素っ頓狂な声がでる。

私の身体の血の気が引くように顔が青ざめてきている気がする。

「それにしても、触媒があの後宮全てだとよくわかったねぇ……気付いたのはフィルベルドかい? あの男に後宮に忍び込まれたのは失敗だったね……あいつは妙に鋭いから……いや、そもそも『真実の瞳』をディアナが宿している事が失敗だったかな。フィルベルドが女に惚れるなんて有り得ないことだと思っていたんだよね……」
「や、やや、焼いた!? まさか、フィルベルド様の邸を全焼させたのはクレイグ殿下ですか!?」
「……気付いてなかったのかい?」

キョトンとして、こちらを向いたクレイグ殿下に悪気は感じられない。

「何で焼くんですか!? フィルベルド様の邸ですよ!?」
「隣国ゼノンリード王国から帰国したから、『真実の瞳』を見つけたのかと思って……アスランに使った形跡が無かったから、フィルベルドがどこかに隠したのかと思ったんだよ。あの屋敷は少し街外れにあったからあまりひと気もないし、隠すならちょうどいいかと考えたんだよね。だから、屋敷を燃やせばフィルベルドが『真実の瞳』を取りに帰るかと思ったんだよ。結局見つけてなかったけどね」

思わず声を大きく問い詰めると、クレイグ殿下はため息交じりに淡々と説明した。

「私が屋敷にいれば、絶対に死んでましたよ!」
「誰もいないことを確認してから焼いたから大丈夫だよ」
「大丈夫じゃありません!!」

本を置いてニコリとするクレイグ殿下に、あきれ果ててしまう。

「……弁償してくださいね。あれはフィルベルド様の屋敷ですよ?」
「別に弁償してもいいけど……それなら早くした方がいいかな? 私は、殿下ではなくなるだろうし、持っている資産もどうなるか……」

殿下で無くなれば、殿下として当てられているお金は全てなくなるし、陛下が持っていた資産も分けられることもないだろう。
現在持っている資産没収だってあり得る。公にはできないことでも、親子である陛下がクレイグ殿下の資産を没収しても問題はない。

「屋敷のことじゃなければ何をしに来たんだい?」
「……フィルベルド様に差し入れを持って来たので、クレイグ殿下にもお分けしようと思いまして……」
「ふーん……ここは出入り自由じゃないけどねぇ」
「……この塔に来られたのは、王妃様のおかげです。心配してましたよ」

鋭いなぁ……と思いながら、菓子袋を開けてクレイグ殿下に差し出すと、一つ取りそれをジッと見ていた。

「手作りかい?」
「そうですよ。不味くはないですからね」
「焼き立てじゃないね……」
「ワガママ言わないでください……王妃様に呼ばれる前に作ったのですから」

王妃様のお茶会は予定外のことだったんだから仕方ない。
そう思っていると、クレイグ殿下はほんのりと笑みを溢して焼き菓子を食べ始めていた。








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