白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫婦の一歩

私の発言に驚いているのか頭が真っ白になっているのか……わからない表情で動かなくなっているフィルベルド様。

私からは言ってはいけなかったのだ、と気まずくなり俯いてしまう。

フィルベルド様に気持ちがないわけじゃない。あの後宮で、私はフィルベルド様を待っていたのだ。
来ないかもしれない。そう思っていても、来て欲しいと願っていた。
そう思えたのはフィルベルド様だけ。

うつむいている私に、彼が優しく聞いてきた。

「……いいのか? もし、無理に言わせているなら……」
「フィルベルド様だから、言っているのです。その……私のせいでお待たせしていますし……」

夫婦だからといって閨を強要することはなかった。それを私が誠実に思うのは当然のことだった。

「もしかして、今夜は仕事で遅いですか? そ、それなら、私が寝ている間にしていただいても……」
「寝込みを襲えと?」
「で、でもですね……私は、そういう経験がなくてですね……起きていてもお役に立てるかどうか……」

段々と今夜の閨を誘っている自分が恥ずかしくなり、顔を見せられなくなってきた。
顔を両手で覆うと熱い。

男性の誘い方なんて知らないのに、私は何を言っているのか……。
いくら優しいフィルベルド様でも呆れているだろう。

なんて馬鹿なんだろう。目尻がジワリと来る。
はしたない、とフィルベルド様に呆れられている気がしてきている。
そう思うと益々顔が上げられなかった。

「ディアナ……寝込みは襲わない。だが、今夜は部屋に行くから待っていてくれ」

顔を覆っている両手を取られて、赤ら顔の私に落ち着いた声のフィルベルド様がそう言う。
毎夜の寝る前の挨拶だけでないということに聞こえた。
恥ずかしくて心臓がバクバクしている。

「……はい。起きて待っています」
「そうしてくれ。覚えていて欲しいから……本当に妻が可愛い……」

フィルベルド様の両手で頬を添えられると、軽く唇を取られる。
絶対に私よりもフィルベルド様の方が色気を出している。
顔が離れると、優しい表情で手を繋いでくると更にドキリとした。

「馬車まで送ろう。一人で来たのか?」
「オスカーとミリアが一緒に来てくれて……」

「そうか」と微笑むようにうなづくフィルベルド様に送られて馬車に戻り、彼は、見えなくなるまで見送ってくれている。

そして、私は邸に帰るなり今夜の準備を始めていた。







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