白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

やっと再会した夫は朝食に感激しています

フィルベルド様の用意してくださった屋敷を出て一晩経ち、朝から街を歩いていた。

歩いていると、朝から騎士様たちが多く思えた。
なにかあったんだろうか。

フィルベルド様も騎士で、この6年間一度も帰って来なかったから忙しいんだろうけど……。
少しだけため息が出ると、騎士たちから視線を移して、側にある喫茶店に目をやった。

美味しそうなパンの匂いがする。朝から、美味しいものでも食べて元気を出そうと思い、朝食に来たから、喫茶店に入ることに決めた。

お店の中もお茶のいい匂いもする。
テラス席は、朝には少しだけ寒いせいか人がいない。一人でゆっくりとお茶を飲みたくてテラス席でお茶を頼んだ。

いつもは、自分で朝食を作っていたけど、昨日の今日だし、たまには贅沢してもいいよね、と自分に言い聞かせて美味しそうなパンとお茶を待っていた。

テーブルに肘をついて街行く人を見ていると、騎士たちが聞き込みのようなことをしていた。

なにか事件でもあったのだろうか……?

自分には関係ないと思い、ボーっと見ながらお茶が来るのをただ待っていると、テラス席に誰かがやって来た。

「……ディアナ……」

名前を呼ばれて振り向くと、夜会で私に自殺未遂の疑いをかけた男性が眩しいくらいの金髪で私に近づいてきた。

彼は、やっと会えたと感無量な様子で私の前で跪き、その様子に逃げたくなるほど戸惑う。

「良かった……無事だったんだな……探したんだ……!」
「さ、探す? と、とりあえず立っていただけませんか?」

視線が、周りの視線が痛い!

まるで物語の王子様のように、地味な私に跪く様子に、周りに騎士たちは呆然となっている。
そして、何故いつの間に大勢の騎士たちにこのテラス席は囲まれているのだろうか……。

「……一晩中君を探していたんだ。ディアナに何かあれば……」
「ど、どうなさったのです? 私は今から朝食をいただこうとしていただけですけど……」
「朝食? ……昨夜はどこにいたんだ?」
「……友人の家を借りていますので、そちらに……」

彼は、この世の終わりかのような必死な形相で、なんとか立ち上がってくれたけど、私には理由が分からず、困惑してしまう。

「あの……良ければお茶を……」
「君と一緒に朝食を摂れるなんて夢のようだ」
「そ、そうですか……」

この人は一体なにを言っているのだろうか?
しかも、私には眩しいくらいの整った顔で微笑んでいる。
私が疑問に思っている間に、側にいた茶髪の騎士にお茶を頼んでおり、その間に私の頼んだお茶とパンがやって来た。

持って来てくれたウェイトレスさんは、騎士たちの間を緊張しながらくぐり抜け、すみません……とこちらが言いたくなるぐらいだった。

ダリオール型で焼いたパンに巣ごもり卵を乗せたものと、お茶を置くとウェイトレスさんは無言でお辞儀をして恐縮しながらテラス席を後にした。

「……ディアナ。朝食と言ってなかったか?」
「贅沢をすると言っても、無駄遣いは出来ませんので……」
「ディアナ、なにを言っているんだ? ルトガー、メニューを持って来させてくれ」
「はい」

お茶を……と言ったから、一緒に朝食を摂るんだろうか。この騎士たちに囲まれている中で?

「あの……朝食を摂るんでしたら、先にこれを食べますか? お仕事中ですよね? 早くお戻りになった方が良いですよね?」

自分が頼んだパンとお茶を差し出すと、かみしめるように感激しており、彼が何を考えているのか本当に分からない。

「やはり俺が思った通りの女性だ。優しくて思いやりがある……」
「なんの話ですか?」

先に朝食を食べてもらおうとしただけで、そんな台詞が出て来るとは……誰かこれを説明して欲しいと思い、騎士たちをちらりと見る。騎士たちは、摩訶不思議なものを見るように何故か目が点になっている。

「ディアナにずっと会いたかった……何度この手に触れることを望んだだろうか……」
「ひゃっ……」

そっと手を取られて、熱っぽい眼差しを向けられる。いきなりのことに心臓は跳ねた。

「ダメですよ!! 私には夫が……」

白い結婚とはいえ、不貞をする気なんかない。

「俺がわからないのか? ディアナ……俺がフィルベルド・アクスウィスだ」
「………………は?」

突然の告白に、息が止まる。変な声が出ている自覚もないくらい思考が止まった。

「ディアナ……どうして昨日は突然いなくなったんだ? それに、自殺なんかしようとして……何が君を悩ませているんだ? 君のためなら、邪魔なものは全て排除しよう」

色っぽく私の手を、フィルベルド様は唇に引き寄せて愛おしそうに触れる。
しかも、排除って一体何を排除する気なのか……そんなことよりも!!

「フィ、フィルベルド様!? そんなはずは……!?」
「俺が、君の夫のフィルベルドだ……」

似ているとは思った。フィルベルド様と姿が重なったけど……!

「昨夜は、奥様と寄り添っていたじゃないですか!?」
「なんの話だ? 妻はディアナだけだ」
「だって……夜会会場の入り口付近で、女性と腕を絡めていて……」

女性といたのをしっかりとこの目で見た。だから、似ていたけど夫のフィルベルド様じゃないと思った。

「……気のせいだ」

気にせいじゃないと思う。……フィルベルド様は知られたくないのだろうか。
ということは、そういう女性が妻である私以外にいるということ。

白い結婚だから、仕方ないと言えば仕方ない。

その間にフィルベルド様は、朝食を頼んでいる。

「ディアナ。食事はすぐに来る。一緒に食べよう」
「この中でですか!?」

周りには。騎士たちが整列しており、まるで要人のような朝食に戸惑う。
そんなことにもフィルベルド様は気にせず、私をずっと見つめていた。






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