白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!
番外編 クレイグ 後編
それから、数週間後。
ディアナは、王都に帰って来ており彼女に会いに行った。
フィルベルドの王都の邸に行くと、ディアナは庭園でお菓子をテーブルに並べている。
軽やかになびく風に乗って、ラベンダーピンク色の長い髪もなびく。周りには、バラが少しずつ花開いておりそのほのかな匂いまで風に乗っていく。
その様子が穏やかで見とれてしまっていた。
「……ディアナ」
「はい」
嬉しそうに軽く頬をピンクに染めて振り向いたディアナに、その表情はフィルベルドに向けたものだとわかる。
呼んだのが私だとわかるとピンクの頬はスウッと消え、いつもの彼女になる。いつものクールな彼女に……。
「クレイグ様。どうされたんですか? 塔から外出許可が下りましたか?」
「ちょっと会いに来たんだよ」
「どうしてですか?」
「国を出ることにしたからね……もう一度会っておこうかと思って……」
ディアナは、困惑したように菓子を置き、一呼吸置いた。
「国外追放はしないと聞いていましたけど……」
「追放ではないよ……私が、自分から国を出ることに決めたんだよね」
「……この国は息苦しいですか?」
「そうだね……」
そう聞かれると、彼女はやはり私の気持ちが見えているかと思う。だからだろうか。なぜだか、素直に「そうだね……」と返事をしてしまった。
「ディアナ。私に刺しゅうはくれないのかい?」
「刺しゅうはダメです。私がハンカチに刺しゅうをしてあげるのはフィルベルド様だけですから」
特別な相手に送る刺しゅうは、フィルベルドだけ。そういうことだ。
いつからか、ディアナとフィルベルドの二人の雰囲気が変わっていた。夫婦として仲睦まじくやっているのだろうと思っていたが……そこには、もう誰も邪魔できないだろう。
ディアナの指を見ると、刺しゅうの跡なのか、指にいくつか絆創膏が貼ってある。
「……刺しゅうは、失敗した?」
「ちょ、ちょっと考えごとをしていて……」
「かして……」
指を隠すように照れているディアナの指を取ると、少しだけ血が滲んでいる。
その指に、魔法をかける。指を取られて抵抗しようとしたディアナは、魔法の光に驚いたのか、大人しくなっていた。
「指が……」
「すり傷程度の回復魔法しか使えないから、ほとんど役に立たないけどねぇ……回復魔法が使えて驚いたかい?」
「……何でもできるんですね」
「何もできないということだよ」
そう言って、掴んでいる彼女の指にそっと口付けをした。
「……一緒に行く?」
「絶対に行きません。フィルベルド様が、ここにいますから……それに、クレイグ様は私のことなど好きではないですよ」
「そう……でも、君が困った時は助けてあげるよ。鎖で繋いだお詫びだね」
引き下がろうとしているディアナの指を無理やり引き寄せることができなかった。
彼女の言っていることが本当だからだ。フィルベルドのように彼女を愛することはできない。それでも、ディアナだけは他の誰とも違う。
すぐに離せないままゆっくりと離れようとした時に、いきなりディアナが目の前から離れる。
「何をしている!? 貴様誰だ!?」
ディアナの後ろから、引き寄せたのはフィルベルドだった。そのまま、ディアナはフィルベルドの腕の中にすっぽりとはまっている。
「フィルベルド様。何を言っているんですか? クレイグ様ですよ?」
「クレイグ様!? なんで俺に化けているんですか!!」
「えぇっ!?」
憤怒の形相で睨みつけるフィルベルドと、驚き私を見るディアナ。
「どうしてフィルベルド様に!? まったくわからないんですから、変なことしないでください!!」
「フィルベルドの邸に来るのに、私の姿のままだと色々面倒だからねぇ……あぁ、それとフィルベルド。暗器を出そうとするのはやめてくれないかい。ディアナは、君といたいそうだから私に止めを刺す理由はないよ」
その言葉に、殺気立っているフィルベルドはディアナに視線を移した。
「本当か? この男を始末してもいいんだぞ? もう殿下ではないし……」
「そ、それはおやめください。それに、私もフィルベルド様のことが好きだと言ったじゃないですか……」
「本当に? だが、この男は邪魔じゃないか?」
「だ、大丈夫ですよ。クレイグ様は、私のことなど眼中にありませんから……ですから、止めは刺さないでくださいね」
ディアナがフィルベルドを見つめてそう言うと、彼は腰から暗器を出そうとした手を離してディアナを私から隠すように包み込む。よほどディアナが大事らしい。
「ここにいると危険みたいだからもう帰るよ……」
「お菓子を持って帰ってください! すぐにバスケットに入れますから……!」
そう言って、不機嫌なフィルベルドを背後にディアナは置いてあったバスケットに、テーブルの菓子を詰めていた。
そして、フィルベルドは変身魔法を解くように言ってくる。もう帰るだけだから、仕方なく魔法を解いた。
ディアナはそれを見て、首を傾げている。『真実の瞳』のせいで本当に変身魔法を使っていても、元に戻っても区別がつかないらしい。
そして、ディアナの菓子を受け取ると、彼女のその気遣いに少しだけ本当の笑みが零れた。
フィルベルドとディアナはそのまま、バラ園の中から私を見送り、私はフィルベルドの邸をあとにした。
ディアナは、王都に帰って来ており彼女に会いに行った。
フィルベルドの王都の邸に行くと、ディアナは庭園でお菓子をテーブルに並べている。
軽やかになびく風に乗って、ラベンダーピンク色の長い髪もなびく。周りには、バラが少しずつ花開いておりそのほのかな匂いまで風に乗っていく。
その様子が穏やかで見とれてしまっていた。
「……ディアナ」
「はい」
嬉しそうに軽く頬をピンクに染めて振り向いたディアナに、その表情はフィルベルドに向けたものだとわかる。
呼んだのが私だとわかるとピンクの頬はスウッと消え、いつもの彼女になる。いつものクールな彼女に……。
「クレイグ様。どうされたんですか? 塔から外出許可が下りましたか?」
「ちょっと会いに来たんだよ」
「どうしてですか?」
「国を出ることにしたからね……もう一度会っておこうかと思って……」
ディアナは、困惑したように菓子を置き、一呼吸置いた。
「国外追放はしないと聞いていましたけど……」
「追放ではないよ……私が、自分から国を出ることに決めたんだよね」
「……この国は息苦しいですか?」
「そうだね……」
そう聞かれると、彼女はやはり私の気持ちが見えているかと思う。だからだろうか。なぜだか、素直に「そうだね……」と返事をしてしまった。
「ディアナ。私に刺しゅうはくれないのかい?」
「刺しゅうはダメです。私がハンカチに刺しゅうをしてあげるのはフィルベルド様だけですから」
特別な相手に送る刺しゅうは、フィルベルドだけ。そういうことだ。
いつからか、ディアナとフィルベルドの二人の雰囲気が変わっていた。夫婦として仲睦まじくやっているのだろうと思っていたが……そこには、もう誰も邪魔できないだろう。
ディアナの指を見ると、刺しゅうの跡なのか、指にいくつか絆創膏が貼ってある。
「……刺しゅうは、失敗した?」
「ちょ、ちょっと考えごとをしていて……」
「かして……」
指を隠すように照れているディアナの指を取ると、少しだけ血が滲んでいる。
その指に、魔法をかける。指を取られて抵抗しようとしたディアナは、魔法の光に驚いたのか、大人しくなっていた。
「指が……」
「すり傷程度の回復魔法しか使えないから、ほとんど役に立たないけどねぇ……回復魔法が使えて驚いたかい?」
「……何でもできるんですね」
「何もできないということだよ」
そう言って、掴んでいる彼女の指にそっと口付けをした。
「……一緒に行く?」
「絶対に行きません。フィルベルド様が、ここにいますから……それに、クレイグ様は私のことなど好きではないですよ」
「そう……でも、君が困った時は助けてあげるよ。鎖で繋いだお詫びだね」
引き下がろうとしているディアナの指を無理やり引き寄せることができなかった。
彼女の言っていることが本当だからだ。フィルベルドのように彼女を愛することはできない。それでも、ディアナだけは他の誰とも違う。
すぐに離せないままゆっくりと離れようとした時に、いきなりディアナが目の前から離れる。
「何をしている!? 貴様誰だ!?」
ディアナの後ろから、引き寄せたのはフィルベルドだった。そのまま、ディアナはフィルベルドの腕の中にすっぽりとはまっている。
「フィルベルド様。何を言っているんですか? クレイグ様ですよ?」
「クレイグ様!? なんで俺に化けているんですか!!」
「えぇっ!?」
憤怒の形相で睨みつけるフィルベルドと、驚き私を見るディアナ。
「どうしてフィルベルド様に!? まったくわからないんですから、変なことしないでください!!」
「フィルベルドの邸に来るのに、私の姿のままだと色々面倒だからねぇ……あぁ、それとフィルベルド。暗器を出そうとするのはやめてくれないかい。ディアナは、君といたいそうだから私に止めを刺す理由はないよ」
その言葉に、殺気立っているフィルベルドはディアナに視線を移した。
「本当か? この男を始末してもいいんだぞ? もう殿下ではないし……」
「そ、それはおやめください。それに、私もフィルベルド様のことが好きだと言ったじゃないですか……」
「本当に? だが、この男は邪魔じゃないか?」
「だ、大丈夫ですよ。クレイグ様は、私のことなど眼中にありませんから……ですから、止めは刺さないでくださいね」
ディアナがフィルベルドを見つめてそう言うと、彼は腰から暗器を出そうとした手を離してディアナを私から隠すように包み込む。よほどディアナが大事らしい。
「ここにいると危険みたいだからもう帰るよ……」
「お菓子を持って帰ってください! すぐにバスケットに入れますから……!」
そう言って、不機嫌なフィルベルドを背後にディアナは置いてあったバスケットに、テーブルの菓子を詰めていた。
そして、フィルベルドは変身魔法を解くように言ってくる。もう帰るだけだから、仕方なく魔法を解いた。
ディアナはそれを見て、首を傾げている。『真実の瞳』のせいで本当に変身魔法を使っていても、元に戻っても区別がつかないらしい。
そして、ディアナの菓子を受け取ると、彼女のその気遣いに少しだけ本当の笑みが零れた。
フィルベルドとディアナはそのまま、バラ園の中から私を見送り、私はフィルベルドの邸をあとにした。